君に出会っておかしくなったのさ!




「あれ?六年い組の綾部 名前先輩じゃないですか。」

私は唐突に開かれた保健室の扉の先にいる冬四郎先輩は青白い顔をしながら脇腹を押さえて部屋の中を確認した。
先輩はちょいちょいと指をこまねき、私を呼び小声で耳打ちした

「新野先生!新野先生いないのか!?」
「え、伊作先輩じゃだめなんですか?」
「あいつだめ。私死んじゃう。」
「どういう意味ですか、しかし、今日は新野先生出張で…」
「あー!名前やっときた!」

にやにやと笑いながら奥から顔を出したのは伊作先輩だった。ひ、と顔をひきつらせた先輩は足を一歩後ろにひくと一気に逃げ出そうとしたが、伊作先輩の包帯の方が早かったのか足元を救われ、先輩は転けてしまった。

「せ、先輩!」
「伊作やだ、触んな近寄んな電波死ね変態。」
「何言ってんの。どうせ脇腹の縫合切れて出血多量でしんどいんでしょ?」
「やだ、新野先生よべ。」
「抉るよ?」
「留ちゃぁぁあん!」

伊作先輩は無理やり先輩の足を引きずると奥の診察する場所に引きずった。

「ねぇ、乱太郎。」
「は、はい!」

伊作先輩はいつものように笑うとどうも酷いことを言った。

「トラウマになるから、みちゃだめだよ?」

伏木蔵と遊んでおいで?
そう言って奥に身を隠した。え、トラウマってどんだけなんですか。あれ、いつの間にお部屋ぽいされたんですか。



「ひぃっ、あっ」
「ほらほら、傷口ぱっくり。なにしたの?」

そう聞くと、名前は瞳を鋭く尖らせ僕を睨んだ。嗚呼、君のその瞳が堪らなく好きでしかたがない!「お前が実習のときに」そう言いきろうとした瞬間に僕は笑いながら彼の下腹部まで伸びる傷口に指を忍び込ませて一気に抉った。

「あ、がっ」

彼は悲鳴めいた呻き声を出し、涙目になりながら傷口を見つめた。抉られた傷口からは先ほどの実習よりも鮮やかに吹き出る鮮血が彼の白い肌を染めていく。
ねぇ、と僕が指を離し、針と糸を加熱消毒するために指先を箱に空中に這わしている時に彼は視線を私に向けた。

「変態性癖。」
「今から治療するのにそんなことを言ってもいいの?」
「お前、私限定で治療して痕を消す気は更々ないだろう」

あら、知ってたの?そうクスクス笑いながら僕は褐色の針に糸を通した。す、と針が通り、満足げに先を玉結びすると迷いなく彼の腹に針を通した。
麻酔なんかする訳なく、僕は彼の腹にまるで布でも縫うように糸を這わせる。
彼は激痛に身を捩りながら「っく、いさ、く」と何度も僕の名前を呼んでくれる。
なんて幸せなんだろう!何時も皮肉しか言わない彼が僕に縋ってる!うれしくて仕方がない!

でもね、君のことなら何でも嬉しい僕にも気に入らない事だってあるんだよ。

(この傷が、僕がつけたものだったなら。)

嗚呼憎い!彼の腹に傷をつけた奴が憎い!どうしていつも僕がつけた傷は直ぐに消えちゃうの?!
嗚呼、苛々する。
でもね、僕なりに考えてみたんだ。これからこの傷を僕が作ったものに変えちゃえばいいんだって。
だから何度も実習で彼の腹を抉り、こうやって縫合してるんだ。
きっとどんな女と重ねる行為なんかよりずっとずっと恍惚的。
嗚呼幸せ。

「ねぇ、名前。いい加減にこの怪我が私のものになったかな?」

そう糸を切り、彼の顔を見れば随分疲れ切った様子で額に汗を滲ませていた。その姿はどんな情事のあとの女よりも魅力的で、僕の頭の中にあるはずの理性はどこかに飛び出しそうだ。

「死ね、変態、」
「好き。僕のこと罵ってくれる名前のことが好き。」

だっていつも最後は僕を見てくれる君を愛してる!
君の血が滴る指先を縫合した皮膚に添わせ僕は何時ものように微笑んだ。


頭がおかしい?
それはほめ言葉だよ!
(ねぇ、名前!次は心臓部分を怪我させて!)
(伊作嫌い、留ちゃん私を助けて)
(ぶぇっくしょん!)







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