思案する



なんとなく、なんとなく空気が違うなと感じた。あのあと、たまたま通りかかった土井先生が私を長屋の自室に運んでくれたらしい。目が覚めたら、とりあえず一週間は様子見、部屋にいときなさい。という手紙と薬が枕元に置いてあって一つため息をついた。
一週間って、地獄だろう。体は鈍るし、人はいじめられない。火薬庫の出庫票とかどうするんだ。
三日ほどなら耐えられるが一週間、それに加え五日も授業が抜ける、というのは些かいただけない。
手元にある本を適当に弄れば、ちょうど一つ、宇沙樹の所にあった帳に手が届いた。どうせオカマの日記だろう。ここ最近の学園の様子を少しばかり垣間見らせてもらおうか。
五日前、私が帰ってきた日から項を捲った。


《名前が瀕死で帰ってきた。伊作が今にも死にそうな顔で必死に治療してる。縫合された部分が痛々しくて直視できない。意識は無いはずなのに痛みで暴れる体は傷だらけで泣きたくなった。とりあえず治療は無事に終わって、あとは名前の回復を望むばかりだ。》

《名前は昨夜よりも落ち着いた表情で寝ている。立花が横で伊作に変わって面倒見ていた。立花は新野先生に二の腕の治療をしてもらいながら苦笑を俺に向けた。なんだか泣きたい。》

《名前はまだ起きない。今日は空から変な子が落ちてきた。受け止めたのは伊作だった。隣で実習をしていた一年生は春の如き頭をしている様子でその少女を学園長の所までつれていった。馬鹿らしい、間者ならどうするのだろう。私に殺させてくれないかな》

《名前は高熱をだした。今日も立花がいた。伊作の姿が見当たらない。本当に死ねばいい。とりあえず新野先生と立花と私で看病した。空から降ってきた少女は紺野由香里というらしい。不細工だった。みんなあれを可愛らしいという頭がわからん》

《名前の熱は下がった。伊作の馬鹿は名前を放置で紺野由香里のそばで笑ってたからムカついて棒手裏剣を投げてやった。絶対名前の方が美人なのに。頭おかしいだろ。あ、明日実習だ。めんどくさ。》

《名前は昼に一度目が覚めたらしい。実習始まる前に見に行ったら新野先生に言われた。とりあえず夜には自室に戻らせるらしい。紺野由香里はうざい。朝食の時に医務室で寝てる名前の事を聞かれた。鬱陶しい。さて、実習にいかなきゃ。》


日記はそこで途切れていたが、なんとなく空気が違う意味がよくわかった。空から降ってきた少女のせいなのだろう。伊作はその子にお熱だようだ。にしても宇沙樹、私のこと好きだな。

胸から蟠りのようにため息が流れる。ああ、いったいこれからどうしようか。
そう思う反面、内心笑いが止まらなくてどうしようもない。別段、自分に害など無ければそれを受け入れることは簡単だ。

「伊作が私を優先しないのは、些かいただけないねぇ。」

そう呟いた言葉は静寂に吸い込まれるように消えていった。未だに見舞いに来ない友人共の顔は今は思い出せない。

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名前、少し苛立ち。
傍観編スタート!!






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