彼は眠る




痛い、という観念からあまりにも外れていた。その感覚を言葉にするならば最早死なのかもしれない。日ごとに体がおかしくなっていた事も気付いていたし、傷が消えないことも、病気になるところも一応気をかけていたが、追加効果すら薄れさせたら私はその辺のゴミみたいにすぐに死んでしまうだろう神様。
そう笑いながら目の前の発光体にしゃべりかけ、私は瞼をゆっくりと閉じた。夢なんて起きたら覚えていないものさ、とでも言いたげだね。でもね、私の肉体、どちらの器ももう人間として機能しないんだよ。

ああ、もう時間だね。私の魂、消滅しちゃうの?ゆっくりと休め?うん、そうしようかな。





おやすみ。






「っは。え、あれ」

天井は変わらず木目が並んでいる。くるくると視線を回せば、薬棚や見慣れた新野先生の机が見える。真っ白な衝立からはいつものように息を吐く保健委員もいない。珍しいな、そう起きあがろうとすれば生きている証だという主張をするように脇腹や背中にに激痛が走る。

「あ、ぎゃ」
「おや、綾部くん。目が覚めましたか?」
「新野、先生」
「五日も眠っていたんですよ。傷口、見せてください。」

五日も、そう呟いて私は寝着の上半身をはだけさせると新野先生に背を向けた。新野先生は触診し、カチャカチャと手元に薬品入れを寄せるとガーゼに染み込ませた消毒液っぽいものを傷口につけた。

「痛い、新野先生痛い。」
「こんな怪我を作ってくる君が悪いんですよ。さ、もう一眠りして、さっさと部屋に戻って療床しなさい」
「あ、の」

私は恐る恐る、この医務室に足りない存在に触れようと口を開くが、新野先生が口に手を当てて眉をしかめて眠りなさい。という。途端に視界がぼやけて眠くなる。くそ、あの先生、すいみんやく、まぜ、た…な。
そしてまた、ブラックアウト。








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