梅雨の話。




「留、頭くぐって!」
「あ!僕がくぐってあげる!!」
「伊作には触らせない!!留!」

何時もより跳ねた頭を手で抑えながら、俺たちの部屋を開けたのは弟よりも落ち着いた色をした名前だった。名前はもうやだ。と口をこぼしながら櫛と髪紐を俺に渡すと当たり前のように俺の胡座の間に座った。まだ眠気の覚めない頭でもう梅雨の時期か、と考えながら持たされた櫛で髪をとかし始めた。
名前は極度の癖毛のため、梅雨になれば自分の思い通りに髪が纏まらなく、毎朝、自分の用意が済めば道具を持って俺たちの部屋まで来るのだ。
面倒な事に随分昔から変わらないその行為に何の意味もないが、かえってこれは面白いものだったりする。

「名前、でかくなった?」
「身長伸びてないぞ。」
「体重落ちたか?」
「少しな」

先程、名前の髪をくくる事を拒否られた伊作はすんすんと泣きながら名前の腰にへばりついて匂いを嗅いでる。呆れて、というか、日常茶飯事なことすぎて何もいう気にならなくなった俺はとりあえず手を動かした。

「あー、名前が三年だったら絶対可愛い。ていうか、むしろ6歳とかなら最高。」
「お前のペド話はいらねえよ。とりあえず、髪くぐってくれたのは有り難いんだけど。」
「なんだよ」
「サイドテールの髪紐を蝶々結びとか、お前の趣味だろ」
「おっと、いい仕事したな俺。むしろ、ツインテが希望だ」

ぐ、と親指を突き出せば引いたような表情をされたが本心だからしょうがない。
それに、六歳頃のお前は本当に可愛かった。何が何でも留と一緒がいい!だなんて言ってくれてたのにな。としみじみ思いながら、なんやかんやで髪型を直せと要求しない辺り、わりと気に入っているようだ。

「名前、可愛い!」
「ありがと、あと邪魔で暑いからのいて伊作。」

先ほどよりも機嫌がよくなったようで名前は伊作の腕を外したり絡めたりして遊んでいる。

「留。」
「おう、」
「髪、くくってくれてあんがと」

珍しく嬉しそうに笑うと伊作に押し倒された名前はにへにへ笑いながら伊作の腹を蹴り飛ばしていた。なんともかわいそうに、と思いながらもでかくなっても変わらなく可愛い幼なじみに頬を緩める辺り、本気で自分終わったな。と確信したあたりがなんとも笑える話だった。







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