紅い虚無




紅、紅、紅。
すべてが紅に染まる。指先に掛けて、首筋、すらりとのびる肢体まで。
まるで毒のようにも見えた。全てを溶かす重い毒。体を錆びつかせる一つの要因。
気怠い体を一つと動かし、禿の子に湯をと頼む。愛らしいその子はできていますよ。とだけ言い、面倒くさそうに私の後ろを見た。

「じじさまに、知らせておいで。悪い虫は駆除しましたって」

それを知らせるまで誰の話も聞いちゃいけないよ。じじさまと喋るまで口を開いちゃいけないよ。そう言い聞かせ禿の子は戸を開き走り出す。
何時までこの仕事をやるか、そう問われれば忍びを止めるか死ぬまでだろう。じじさまは馴染みのくのいちを使うわけでもなく、学園長に頼んでまで忍たまである私を使う。私はお金に釣られその仕事を始めたが、今となれば、どうしようもない仕事だと自負をしている。
湯を使うために一人用意された部屋へ向かう。誰もいないその風呂は広くても、どこか苦しく感じさせる。
ちょうどいい湯加減の湯に脚を入れ、全身を浸らせる。トクトクと紅いシミが風呂に広がっていく。元々無色透明だったそれは地獄の池のように紅くなり、まるで罪人のような気持ちになった。

「何をしているんだい、名前」
「貴方こそ、利吉さん」

そう言って紅く染まる風呂から立ち上がり、背を振り返れば、山田先生の息子さんの山田利吉さんがいた。
利吉さんは面倒そうにため息を吐くともう一度問いかけた。

「何をしていたんだい、名前」
「あら怖い。私はここの主に頼まれて害虫を殺しただけですよ」

利吉さんこそ、と聞けば彼は苦虫を潰した表情でお前は、と呟いた。

「私はお前が殺した害虫を護衛するために雇われたんだよ。それなのにお前は」
「だってお仕事だったんだもの、しょうがないじゃないですか。ね、先輩?」

そう言うと舌打ちをし、彼は私の腕を引いた。何事かと思い顔を上げると悲しそうな顔で「馬鹿じゃないのか」と呟き、湯の熱で火照る体を抱きしめた。

「利吉、さん。この事は私と学園長だけしか知らないんですよ」
「嗚呼、周りには言わないよ」
「良かった。でも私、利吉さんのこと嫌いです」
「だが私は、お前のことが好きだぞ。」

だがな、と続け彼はあまり聞きたくない言葉をつらつらと並べる。

お前の存在はきっと毒にもなり、他人を殺すだろう。その甘くてとろけそうな香りも、艶めかしい色も全てが毒になるだろう。
そう言い切り、彼は私を抱きしめる。

「なら、そんな毒に溺れてくだしゃんせ」

一夜なら、これを秘密にしてくれるなら抱かせてあげませう。そう、知り合いの姐さんから聞いた言葉を一つ呟いて利吉さんの首筋に腕を絡めた。



毒ならば、毒らしく生きてやろう。艶めかしい紅を振り撒き、私を好む人を溺れさせようじゃないですか。私はまるで血のようにその体を這い巡りませう。








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