食満と彼




「け、け、けまっく、けまけまっくす。」
「嫌がらせか。この間俺が助けなかったのをよっぽど恨んでんのか」
「そんなわけないよ、ショタコン食満。」

そう言いながら、組み手の筈なのに的確に急所を狙ってくる名前に一瞥くれ、拳をひとつ右肘に目掛ける。
動きを読んでか、一歩足を後退させてまた鳩尾に向かってくる拳をひとつ受け流す。

「ぜってえ恨んでるよなお前。」
「むしろ、あの状況をみて《サーセンwwちょww》とかって去っていた手前を見て次の実技で絶対シめるとか、思ってはいたさ。」
「思ってたのかよ」
「じゃなきゃあ、今しとめようとしてないよ」

地面が軋む感覚がした。
後退した瞬間に足払いをしようとした名前の足を避けるために高く跳び、背後に周り首筋を狙い手刀をつくる。その瞬間に冬四郎は腕を引き上げ、まっすぐ顎を狙って拳を振るが、俺は顎を上げその攻撃を避けたはいいが次の瞬間に左足が腹部に目掛けて飛んできた。

ぐぇ、と蛙の潰れたようなうめき声が出たかと思えば地面に叩きつけられ、名前が俺に馬乗りになった。

「私ね、マッドラウンドが好きなんだ。」

そう言って、拳を高く上げると勢いよく俺の鼻目掛けて一気に下ろした。これを食らったら間違いなく逝くと感じた俺は直ぐに顔を横に動かすが、振り下ろされた腕は後頭部の直ぐ近くで地響きを鳴らした。

「名前。マジで?」
「マジってなぁに?私はいつでも本気でぶちあたってるよ」

冷や汗が止まらない。顔に影を作らせてまた拳を上げて、次こそ本気で頬に向けて振り下ろした。5、6発殴ったところで先生が急いで組み手の終了を告げれば残念そうな顔で舌打ちし、満面の笑みで俺をみた。

「留ちゃん。次の試合は止めないでね?」
「次?次ってお前、いさ…」
「名前〜!」

名前は満面の笑みで拳を握ると胸元に仕舞っていた千本を指に挟んだ。
伊作も笑顔で鉄扇を取り出した。

「名前、今日は何処なら怪我させてくれる?」
「変態、今日こそお前の鼻をへし折ってあげる」
「ああっ、そんな名前がすきだよ!」

痛い。殴られた顔も相当痛いが、伊作が相当痛い。そして名前の殺気も死ぬほど痛い。
先生がかけ声を上げた瞬間に伊作は間合いを詰めて鉄扇を横に薙払うように振ったがそれを避けるように名前は高く跳び伊作の後ろに回った。そして足払いをかけようとしたが、伊作が反対の足に足払いをかけてバランスを崩させた。
伊作は昔から名前相手だと強かった。病気過ぎて。名前は精神的に圧されてるから伊作に裏を読まれてることに気づいてはないらしい。

さっきのデジャヴで、次は名前が伊作に馬乗りになられてる。でも名前は伊作に頭突きをかますと一気に立ち上がり間合いをとった。

「死ね変態」
「ヤバい、鼻血出てきた」

伊作は笑いながら苦無を取り出すと名前の腕に目掛けて投げた。冬四郎は見切ったようにそれをよけて伊作との間合いを詰めて拳を握った。

「あほか」

ガツンと伊作の鼻の骨が折れる音がし、次の瞬間に気持ち悪いくらいの笑顔で倒れる伊作がいた。
先生は呆れながら俺の名前を呼ぶと新野先生のところにこのバカを連れていけと言う。
俺は名前の顔を見て面倒だが伊作を担いだ。残念ながらコイツの鼻を折ってもコイツの顔が崩れることが無いことに舌打ちしながらも、次の相手である文次郎に向かって罵っているところを見れば、日頃の鬱憤を晴らせたようでどこかすがすがしい顔をしてやがった。







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