邂逅2
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※マリアマリー様のサイト「sector:BRAIN」の夢主"ダリア"が登場します。
設定としては「お気に召すまま」のものを使用させていただいております。(当然ですが名前と登場させる許可は頂いております)
※時系列としては「お気に召すままアフター」の後ですが、この話の中ではまだダリアとジャックは結婚してませんし、ポッポタイムで同居してるのは当サイトの夢主の方です。
※従ってジャックに恋人(ダリア)がいる状態で話が進みます。
※やっぱり管理人が楽しいだけかもしれない
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「こんにちはー!」
元気よく女性の声が響く。
それはこの家の中にとって久々のものだった。
「いらっしゃい、ダリア」
そして出迎えるもう一人の女性。
この家で暮らすリューナはダリア、と呼んだ彼女をリビングへと案内する。
ソファに座らせて、リューナは紅茶を出す。
ありがとうと受け取ったダリアだが、彼女を穿つリューナの目はなんとなく苦笑いしていた。
「…聞いたわよ」
「…何を?」
タイプが全く違うこの二人を結びつけたものはデュエルであったが、今この二人の間に流れる不穏な空気の元もデュエルである。
とぼけてみせるダリアに、文句を言うでもなくリューナは事実を突きつけることにした。
「貴方、子供に負けたんですって?」
「っ…!」
思わず動揺して紅茶がこぼれる。
幸いダリアのスカートにはかからず床とテーブルに数滴落ちただけだったが、それでも彼女の視線は落ち着かない。
「な、だ、誰からそれを…」
「貴方の旦那様、ジャック・アトラスからよ。ダリア・アトラス」
「や…っだ!!リューナちゃんまでそんな…!」
「照れるのはあと。…しかも本気だったんですって?ダリア・アトラス」
「もううう!照れさせないでぇえ…」
「答えなさいな、ダリア・アトラス」
真っ赤になった顔を隠すダリアに心の中で溜息を吐きつつリューナは席を立つ。
そのままガレージにいる遊星とジャックを呼ぶと、それぞれにデュエルディスクを付けて上がってくるように促した。
「で…本当に本気だったの?」
困ったような表情だが、ダリアもこのままからかわれっぱなしでは気が済まない。
そんなことない、と見栄を張ると、自身のデュエルディスクに手を乗せた。
「あれはお仕事で、わざと負けてあげたの。そうしないと、子供泣かせのセキュリティって変な噂が広がっちゃう」
「……ふーん」
なんだなんだ、と遊星とジャックが上がってくる。
リューナに言われた通りにデュエルディスクを着けてきた彼らは話を聞いていたらしく、階段を上がりきる前から半信半疑でダリアを見つめ続けていた。
ジャックは疑いが9割を占めていたが。
「なら、それを証明してくれるかしら。いくら潜入捜査で入ったとはいえ、アルカディアムーブメント元入団者が子供に本気で負けるなんて洒落にならないもの」
「え」
そういう展開になるとは思っていた。
思っていたが、ならないで欲しいと思っていたのも事実。
勘弁して、というダリアの心の声は誰にも聞かれることはない。
自分の夫(候補)がうんうんと頷いているのを見てショックを受けつつ、彼女はリューナの申し出を受け入れた。
遊星が彼女に近付き、何かを耳打ちする。
リューナはそれをしばらく聞いていたが、やがて頷いてデュエルディスクからカードを抜いた。
そして、彼からデッキを受け取る。
「?」
「ハンデよ。遊星のデッキを私が使ってみるわ。それで貴方が勝てなかったら…分かってるわよねぇ?」
にこりと微笑んでいるはずなのに、まるで氷を纏っているかのようなリューナを前にダリアは恐れを抱く。
ジャックにどうにかして欲しくて顔を向けるが、彼は頑張れ、と目線を送るだけだった。
どうしたの、とリューナから声がかかるが、彼女はやめる気配を見せない。
「確認だけど…一回も使ったことないんだよね?」
「もちろんよ、だからハンデって言ってるでしょう」
しれっと言ってのけるが、ダリアがジャックの警護についていた時に観戦していた遊星のデュエルは中々展開力があったはず、と思いだすが、今は使用者が違うため若干油断していた。
そう、油断していたのである。
終わってみればリューナの圧勝で、ダリアは手札はあるがフィールドはがら空きの状態で。
ジャンク・アーチャーの一撃をくらって撃沈した彼女は、ポッポタイム前の広場で膝をついてうなだれていた。
あーあ、という3人の視線を一斉に受け止めて。
カードをしまい助け起こしたジャックだが、自分の腕の中にしまうことはせずにリューナに突き出した。
「……特訓、するわよ」
「……本当に?」
「本当に」
「…リューナちゃん、遊星のデッキ使ったことあるでしょ?」
「ないわよ」
とは言うものの、リューナの展開の仕方は完璧だった。
モンスターの召喚も、魔法罠の発動タイミングもばっちりで。
遊星があの時アドバイスしたんじゃないかとも思うが、今となっては確かめようがなかった。
だが。
手をひっぱり、中に入ろうとするリューナに抗う。
何かしら、と答える彼女に精一杯抗って、ダリアはもう一回、と答えた。
「じゃあ、リューナちゃん、遊星からアドバイス貰ったでしょ」
「食い下がってくるわね、ないったら」
「…なくったっていいもん。なら、例えば私がジャックからデッキを借りてアドバイス貰ってもいい?それで勝てたら特訓はなし!」
「まあ…そうね、勝てればね」
言いがかりをつけるダリアに応えるリューナだが、正直そうしたところで彼女が勝てるビジョンが見えない。
使いなれた自分のデッキで戦う方がまだマシなんじゃないかとは思うが、リューナはやりたいようにさせることにした。
「ね、ジャック」
「…」
ジャックのデッキもダリアのデッキも驚いてる、と思いつつも恋人同士のやりとりを視界に収める。
遊星はその後ろで暖かく見守るが、彼がぽつりと漏らした言葉がリューナには気になった。
「…ダリアは、自分のデッキを信じていられてるんだろうか」
どういうことか、と聞きたかったが、ジャックとダリアのやりとりのスピードが早くてタイミングを逃す。
だがその早さの中でもそれなりのアドバイスを貰ったらしく、彼女の目は自信に満ちている。
「さ、お待たせ」
「…今度こそ本気で来なさいね」
「う、分かってるよ…」
「ならいいわ、さあ」
「「デュエル!!」」
・
・
・
所詮付け焼刃は付け焼刃だった、と言うことだろうか。
レッドを召喚しても負けたダリアはただただ地に膝をつけるだけだった。
「…ダリア」
「…」
ジャックの呼びかけに反応はするものの、口で答えようとはしない。
リューナが呼んでも同様で、どうやら相当落ち込んでいるようだった。
と思ったが。
「もー!!また負けちゃった!!」
突然ふっきれたようにダリアは立ち上がる。
驚いた二人が半歩さがるが、遊星はリューナを抱きとめた。
「えええ、私ジャックのアドバイス通りにしたのに…」
「…そう…」
「リューナ、こいつは本当にオレの言う通りにした。その悲しい目はやめてやれ」
「…ごめんなさい」
いいのいいの、と首を振るダリアをジャックは撫でてやる。
慰めのその行為を受け入れる彼女の頭に、ジャックの手越しにレッドが乗った。
「…ダリアは、デッキを信じていれているか?」
その中投げ掛けられる唐突な遊星の質問。
思わず目を丸くしたダリアに、リューナは大事なところよ、と補足する。
控え目に一度頷いたダリアだが、迷いが見えることは誰の目にも明らかだった。
「…デッキは、信じてる、けど、私の所為で負けたらって思うと…」
「きっとその思いは、デッキに伝わってるわ」
リューナが彼女の傍に寄り、デッキに手をかざす。
ジャックのデッキからは未だ動揺が見えるものの、個々の意識ははっきりしていた。
「伝わっているから、迷いが出ちゃうみたいね」
「…迷い」
「そう、デッキも同じように"自分の所為で負けたら"って思ってるわ。それだと自分が意識してなくても迷いのあるドローしか出来なくなる」
「どうしたら…」
「迷わないことね」
あっけらかんと言い放つ彼女には説得力がある。
やはり物ごころついたときからデッキと共に生きてきたこともある所為だろうが、それがダリアにはまぶしく見えた。
ふ、とデッキを見る。
「例えばピンチの時でも、「どうしようどうしよう」じゃなくて「今ここであのカードが来たら、あの子がきてくれれば」って思うだけでも違うものよ」
「…」
「貴方が期待をかけて愛情を込めた分だけデッキは応えてくれる」
「そ、っか…」
そういえば子供とデュエルした時も。
いつしかジャックとデュエルした時も。
そういった気持ちでカードに手をかけていた。
なら。
思い出すダリアの目からは迷いは消えている。
分かってくれたようだ、とリューナは納得すると、遊星にデッキを返して自分のデッキと入れ替えた。
「…ん?」
「言ったでしょう、特訓よ。今日は意識から変えてあげるわ」
「えええええ!」
「甘んじて受けろ、ダリア」
「ジャックまで!」
止める気配のない遊星は、今まで自分の彼女が使っていたデッキを大事そうに撫でる。
それを見てこれは止まらないと判断したダリアは、半ばやけくそでデュエルを受けるのだった。
だがしかし。
意識を変えても負けるものは負けるらしい。
無傷で立っている友人カップルは羨ましいくらいすっきりした表情をしている。
あまりにも羨ましかったから、ダリアは反撃に出ることにした。
デュエルでは敵わないから、別の方法で。
「…リューナちゃん」
「何かしら?」
「リューナちゃんは、遊星と結婚したら不動リューナちゃんになるんだよね」
「…!?」
「そうだな」
肯定する遊星に迷いはない。
何を言って、と抗議するリューナだが、ダリアは止まらなかった。
「不動リューナちゃん、可愛い名前だね!きっとお似合いの夫婦になるだろうなー」
「…っこら、やめなさい…!」
ダリアが来た時とは正反対にリューナの顔が赤くなる。
恥ずかしがることではないだろう、と遊星がリューナの手を掴むものだから、彼女は赤面を隠す手立てを失ってしまった。
ジャックの後ろに隠れ、囃したてるダリアの手を引き、ジャックは自分の胸に収める。
「ジャック?どうしたの?」
「いいや、お前が反撃に出るとは思わなかったから。俺も反撃してやろうと思ってな」
ニヤニヤと遊星を見ながらダリアを抱き締める。
遊星はその視線に気付いたようで、リューナを引き寄せて腰を抱いた。
「ふ、外堀がこんなに埋められたら逃げられないな?」
「ちょっと遊星…!」
更に赤くなる顔で、ダリアは勝利を確信する。
「ふふふ、不動リューナちゃん、可愛い!」
ジャックに抱かれながらも挑発する彼女だが、どうやらやりすぎたらしい。
照れが極限に達したリューナが特訓、と口にすると、途端にダリアから血の気が引いた。
「ダリア・アトラス、やるわよ」
もうここまできたら実戦しかないわね、と言い渡されるものの、彼女の雰囲気が重くてそれどころじゃない。
ジャックから解放され、なんとかリューナに許しを請おうとは思うものの、彼女は頑なに許さなかった。
「リューナちゃん!」
後日、仕事終わりに寄ったというダリアが手を振る。
どうしたの、と聞くと、どうやらデュエルで勝ったという報告らしくてリューナの期待を膨らませた。
「やれば出来るじゃない、…で、誰に?」
「…」
しかし、この質問で時が止まる。
誰に、とは時間を開けて聞いても、それでも教えてくれない。
どうしたの、と顔を覗き込むと、ダリアは申し訳なさそうに口を開いた。
「あのね、…幼稚園児」
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お互いの彼氏が空気すぎる件。
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