続・ジャックと仲良くなる話
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※「仲良くなる話」の続きではありません。
「おい」
唐突にジャックに呼び止められる。
ソファでは遊星が、リューナの呼び出したスターダストと触れ合っている。大きさは、遊星の腕で抱え込めるほどで、家が破壊されていることはなかった。
リューナはリューナで、肩にスターダストと同じ大きさのグングニールを乗せてその様子を微笑ましく見守っている。
「何かしら」
そのリューナが答える。ジャックは、彼女の腕のデュエルディスクをちら、と見ると、自分のデッキケースから1枚のカードを渡した。
「…?」
「こいつも呼べ」
不遜な態度だが、リューナは素直にカードを受け取る。
「…レッド・デーモンズ・ドラゴン」
カード名を読みあげると、スターダストと戯れていた遊星がジャックの顔を見る。
「…なんだジャック。羨ましいのか」
「そ、そんな訳なかろう。リューナの力を試してやろうと思っただけだ」
散々力を見てきたくせに、と遊星は思うが、ただ素直になれてないだけなので何も言わない。
不安そうにスターダストがグングニールを見るが、氷龍は『大丈夫だ』というように一度頷いた。
「いくわよ、レッド・デーモンズ・ドラゴン、召喚!」
小さい炎の塊が宙に浮かぶ。それはほんの一瞬で、すぐに龍の形になった。
『俺様降臨!今日の相手は……あれ?』
恐らくレッド・デーモンズのものである声が響く。まるでやんちゃ坊主のようなその口調は、ジャックに衝撃を与えた。
「…レッド・デーモンズ…」
『あっれ…!デュエルじゃないの!?』
「ごめんね、私が呼び出したのよ」
ほら、と3枚のカードが乗ったデュエルディスクを見せると、レッド・デーモンズはジャックの肩に乗った。
『あ、本当だ…グングニールの主人が…なら納得』
「納得とはどういうことだ」
『よくスターダストから「リューナに呼び出してもらってマスターと遊んでもらってる」って聞くもん』
「貴方そんな話してるの」
『…世間話だ』
『で、どうしてまた俺様呼び出したの?』
苦し紛れのスターダストの答えの直後にされたレッド・デーモンズの質問で、じ、と一斉に視線がジャックに注がれる。彼は耐えられなくなったのか、顔をそらしてふんぞり返った。
「オレの右腕のドラゴンがどんな奴なのか知りたかっただけだ!」
「ジャック、最初と言ってることが違うぞ。リューナの力を試すんじゃないのか」
「ええいほっとけ!」
遊星の隣にどかっと座る。スターダストとレッド・デーモンズはそれぞれの主人の膝の上でリラックスしていた。
「…それにしてもよく懐いてるのね。そこまで使い手に懐くのってそうそうないわ」
グングニールを肩から下ろし、腕に抱く。圧迫されて痛いのか、氷龍は翼をばさ、と広げてからリューナの腕に体重を預けた。
「そうなのか?」
「ええ…アルカディアムーブメントにいた頃は人もモンスターもギスギスしていてね…。主人になついている子なんてほんの一握りだったわ」
『他は、あくまで「自分を所有している人間」としか見ていなかった。』
グングニールが補足すると。遊星とジャックは自分のドラゴンと視線を合わせる。
「…それは、悲しいな」
『皆マスターのようならいいのに』
「フン、そんな奴らのするデュエルなどたかがしれている。自分のデッキにすら愛想を尽かされるなどデュエリスト失格だ」
『そうだそうだ!』
「中々そうも言ってられないのよ。いくらデュエリスト失格でもデュエルをしなければ用済みだったんだもの」
遠い目で語る。きっと聞くのも見るのも辛いやりとりが多かったのだろうと遊星は推測した。
「お前は違ったんだろうな」
念を押すようにジャックは聞く。膝のレッド・デーモンズは、スターダストにちょっかいをかけていた。
『当然だ。主は我らを守ってあの世界で生きてきた。我らが主を認めず誰を認めるというのだ』
答えたグングニールの眼光は鋭い。まあまあとリューナは彼の頭を撫でてなだめた。
遊星が手招きをする。主人の意向を組んだスターダストは、飛んでグングニールの傍に寄り添った。
「…?」
「来てくれ」
どこに、という視線を向けるが、その間も遊星の手の動きは止まらない。てくてくと彼の前に歩いていくと、遊星はリューナの身体の向きを反転させて自分の膝の上に乗せた。
グングニールを抱く腕が緩められるが床に落ちることはなく、主人の膝の上に降りる。
スターダストがその隣に着地する。ドラゴン2体と恋人の重さが遊星に圧し掛かるが、彼は気にすることはなく、リューナの腰に手を回した。
「ちょっと遊星…!」
「…なんだ、見せつけるつもりか」
「いや、今は俺が守っているというのを表現したかった」
薄く笑うが、ジャックはひるまない。代わりにレッド・デーモンズが見せつけるようにジャックに抱きついた。
『ふふん、俺様のご主人はそんなことしなくてもいいんだぜ!なんたって俺様のご主人なんだからな!』
「こらレッド…!」
「ふふ、可愛いわね」
「いや、可愛いとかではなく…!」
スターダストとグングニールは興味深そうにジャックとレッド・デーモンズを見る。どうやら普段見られない姿を記憶にとどめるのに一生懸命らしい。その視線を受け止めて、ジャックはなんとかしてレッド・デーモンズを自分のシャツから剥した。
「なんというか…ギャップというものがすさまじいな…」
「でもそれもレッド・デーモンズ・ドラゴンよ」
『えっ、何ご主人俺様嫌い…!?』
「いや違うが…存外甘えん坊なのだと思っただけだ」
『なんだよー!悪いか!スターダストの主人よりいいだろ!』
「ああ、あれは甘えん坊などという生易しいものじゃない。独占欲の塊だ」
それを聞くと、グングニールの隣で伏せていたスターダストが跳ね起きる。
『マスターの悪口はいくらレッド・デーモンズのマスターでも許さない』
「悪口ではなかろう」
慌てて弁解するが、スターダストは聞き入れない。グングニールの前足を引いて、お前も何か言ってやれ、とレッド・デーモンズの前に進ませた。
何か、と言われても別段言うことはない氷龍は、主人の方を見る。リューナはリューナで、困ったように笑っていた。
彼女も言うことはないらしい。
察するしかないグングニールは、遊星の顔も見る。その視線に気付いた遊星は、フ、と笑ってジャックの方を向いた。
「グングニールは俺が独占欲の塊とやらでもいいと言ってるが?」
そんなこと言ってない、とグングニールが。
今悪口を言うなと怒った私の立場は、とスターダストがそれぞれ遊星の方を振り返る。
その視線を受け止めつつ、彼はリューナを抱く力を強めた。
「確かに悪口かもしれない。スターダストが怒るのももっともだ。…だが、俺はそれが事実だから認めるしかない」
決してスターダストを責めるわけじゃないぞ、と補足すると、スターダストは安心したように遊星の頭に乗った。
グングニールはグングニールで、訳が分からないと言った顔で主人の膝に舞い戻った。
『ご主人、結局あいつら見せつけてるよ!こらしめてやってよ!』
「そうだな、たまには黙らせてやってもいい」
「やるのか?いいぞ、相手になってやる」
臨戦態勢になったジャックとレッド・デーモンズ、それに遊星を見て、残されたリューナとスターダストとグングニールは顔を見合わせて溜息を吐いた。
「結局ああなったわね…」
『ああ…マスターったら貴女の事になると私達カードととんでもなく頑張るんだ…まるで次のドローが分かってるかのようで…』
『…苦労するな』
やいのやいのとジャックと遊星が会話する声を聞きながら、一人と二体は成り行きを見守る。
やはりというかなんというか、デュエルだ!という声が聞こえてきて、しょうがないといった態度でスターダストはカードに戻った。
ポッポタイムの前に出て、デュエルディスクを展開させる。
約1時間後、遊星が怒涛の攻めで圧勝し、「ジャックの前でいちゃつく権利」をゲットしたのは言うまでもない。
「…ジャック、お疲れ様」
「…」
「そんな納得いかないって顔しないで欲しいわ…」
「あいつの引きがおかしい気がする…都合のいいカードばかり引きおって…」
「…」
ぶちぶちと文句を言うが、言われたところでリューナにはどうしようもない。
ただ苦笑いを浮かべて、彼の気が収まるのを待つばかりだ。
「…まあいい、それより、貴様、明るくなったな」
唐突に真面目な顔になったジャックがリューナを見下ろす。
「来た当初は暗いやつだったが、今日レッド・デーモンズを出した時の顔は楽しそうだったぞ」
「そう、かしら」
視線をそらす。そのためジャックの後ろから遊星が近付いているのに気付けない。
「…「こんな力、何に使えると言うの」とお前は言ったそうだな」
「…誰から」
「遊星から聞いた。…だがお前は、こうして自分ばかりか遊星やオレすらも楽しませた。素晴らしい力の使い方だと思うが」
じわり、とリューナの視界がにじむ。ジャックはぎょっとしたが、すぐにポケットからハンカチを取り出し、涙をぬぐってやった。
「ええい泣くんじゃない」
「…ありがとう」
「これくらい当然だ、礼を言われる程じゃない」
リューナは、にこ、と笑うと、恥ずかしくなったのかポッポタイムに逃げ込む。彼女の姿が見えなくなった後、何泣かしてるんだと遊星に怖い笑顔を向けられたジャックは、一生懸命弁解して理解を得ようと必死だった。
『レッドの言うことに間違いはなかったな』
「…そうね、仲間思いで優しい…その通りだわ」
遊星の部屋でリューナとグングニールはくすくす笑う。玄関前でそのレッド・デーモンズの主人が大変な目に遭ったことを、彼らは知る由もなかった。
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安定の不憫キャラになってしまった…
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