クロウと仲良くなる話
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「いただきまーす」
料理が全て出来上がった直後、クロウが帰ってきた。リューナは彼と、未だガレージでDホイールの調整をしている遊星に手を洗って2階に上がるよう伝える。クロウはブラックバードのエンジンを切ったら、遊星はちょうどキリがよかったのか、すぐに工具を片づけたら、それぞれ2階に上がった。
そして今。
およそ1週間ぶりの肉を前に、全員が一斉に箸を伸ばす。いくら遊星の奢りだと言っても、遠慮などなかったのが、かえってリューナには心地よかった。
食器同士がぶつかるカチャカチャという音とそれぞれの息遣いしか聞こえてこず、全員が食事に集中していることがわかる。いつもはそれなりに会話があるのだが、今日はそれが一切ない。それほどまでに食べざかりの男たちにとって肉が重要なんだと思い知らされているようだった。
「…ジャック」
「…なんだ」
沈黙を破ったのはリューナである。呼ばれた金髪の男は、ちゃっかり自分の分の唐揚げを確保した後に返事をした。
それぞれの人数分皿にとって並べた方がよかったかしら、と考えつつ、少女は続ける。
「おいしい?」
「当たり前のことを聞くな。」
さらりと返され、返答に困る。フォローなのか遊星も、うまいぞ、と口を開いた。
「そう、…ありがと」
目をそらしながら礼を言う。その顔が赤くなっているのに気付いたのは、リューナの目の前に座っていたジャックだけだったが、あえて触れずに食事を済ませた。
ジャー…と水が流れる。食器をもくもくと洗うリューナに、クロウが近付く。
「手伝うぜ」
「ありがとう、じゃあすすぎお願いしてもいいかしら?」
彼がオッケー、と答えると、少女は体を少し移動させ、場所をつくった。
「…」
「…」
沈黙が続く。クロウが横目で様子を窺うが、どうやらリューナは目の前の汚れた食器を如何に早く片付けるかに集中しているようだった。
しかし、気になることがあったクロウは、あえて気付かないふりをして声をかける。
「それにしてもよ、俺お前とジャックが話すところ初めてみたぜ」
ワンテンポ置いて、リューナがクロウのほうを向く。食器を洗う手は止まっていない。
「そう、かしら…?」
「おう、特に食事の時だな。いつも同じテーブルについてんのに会話ってもんがねぇの。」
あれは気まずかったぜ、と続ける。少女は真に受けたらしく、今までの食事の時間を思いだして、確かに、と呟いた。
「悪いことしたかしら…」
「いや、気にしなくていいと思うぜ。話しなかったのはジャックも同じだし、今日だってお前が話しかけなかったらあいつもくもくと唐揚げ食ってただけだろうし」
「まあ、ね…。あ、でもジャックのことは嫌いじゃないのよ?」
ちょっと威圧感があるだけで。最後の一文は胸にしまったが、クロウは気にせずに続けた。
「そんな事知ってらあ。まあでも、あいつ見かけに反してちょっと純情なとこあるからなー。お互いに緊張してたんだろ、多分。」
「多分、ね」
気付いたら洗うべき食器は無くなっている。自分の手の働きを自賛しつつ、リューナは近くにあった布巾で、テーブルを拭いた。
「でも今日、彼と仲良くなれたのよ」
ふふ、とクロウに笑顔を向ける。彼もブルーノと同じように笑顔でそれに応える。
「お、良かったじゃねぇか。……実は遊星がな、リューナとジャックがまだぎこちないって言って心配してたんだぜ。あとでお礼言っときな」
それはもらっとくからさ、とリューナの手から布巾を受け取る。少女は手を洗い、タオルで拭くと、そうするわね、と言ってガレージへと降りて行った。
「まあこれで、WRGPのチーム名は決まったようなもんだろ…」
噴水広場仲良し連合。
全ての家事を終え、忘れないようにメモしておこうと自室に向かうクロウは、後にダメ出しされることなど微塵も考えてはいなかった。
「遊星」
「リューナ、どうしたんだ」
今度はパソコンに向かって何かをチェックしている遊星に、少女は静かに近寄る。少しでも作業の邪魔をしたくないという配慮からだが、声をかけてしまえば同じだった。
だが声をかけないとずっと気付いてもらえなさそうだったのもまた事実である。
パソコンとDホイールは何かの線でつながれており、どうやら今日の作業の最終チェックをしているらしかった。
「別段用があるってわけでもないのだけど…ありがとう」
「…?何の話だ?」
「女の子からの礼は素直に受け取っておくものよ、不動遊星」
まさか、ジャックとの仲を心配してくれてありがとう、だなんて言えるはずもないリューナは、そう誤魔化す。恋人同士のけんかでもあるまいし、と心の中で悪態をついた。
どう返していいのかわからない遊星は、画面を見ながら、そうか、と答えた。
「…ここからは私の独り言」
いつもはブルーノが座っている椅子に腰かけ、リューナは口を開く。
「今日は楽しかったわ、皆と仲良くなれた気がして」
「…これも俺の独り言だが」
相変わらず画面から目を離さず、遊星は言葉を紡ぎ始める。
「ここにいる全員は皆リューナを大切な仲間だと思っている。仲良くなれた気がするんじゃなくて、仲良くなったんだ」
「…なにそれ…恥ずかしいんですけど…」
「だから独り言だと言っただろう」
しれっと、あくまで平常心で話す遊星に納得がいかないのか、リューナは席を立ち、彼の側に歩み寄った。
「耳が赤いわよ?」
「気のせいだ」
「いえ、気のせいじゃないわね。何あなた、自分で言って照れてるのかしら?」
「そんなことはない」
押し問答を続けるが、一向に引かない遊星にしびれを切らす。
「分かったわ、そういうことにしてあげる」
「してあげるも何も、そうなんだ」
「…まあ、いいわ。お風呂はいって寝ちゃうわね。…おやすみ、遊星」
「ああ、おやすみ」
こうして、ポッポタイムの夜は更けていった。
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クロウとリューナも仲良しだからこれもタイトル詐欺です。
とりあえずクロウ編をもって「仲良くなるシリーズ」(シリーズ?)は終わりです。
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