※ヒロインは誰ともお付き合いはしてません。



「っく…」
「…」

氷のブレスが、ジャックを直撃した。
次いで鳴る、デュエルディスクの音。
敗北を知らせるそれがジャックのものから聞こえた時、リューナを守るように氷龍が隣に寄りそった。
今しがたジャックを破った彼女は静かに彼を見据えている。
ジャックはというと、ショックがあまりにも大きかったのか膝をついたまま立ち上がることも伏せることも出来ないでいた。
「ジャックを負かすとは、リューナもやるじゃねえか」
感心する声をあげるクロウの横で、遊星も同意する。
かつてキングであった彼に勝ったリューナは、何も気にしてはいないようだったが。
「…私の勝ちね」
風に髪をなびかせた彼女は、何も考えずに事実を口に出す。
それを契機に、ジャックは自我を取り戻したらしく、ゆっくりと立ち上がった。
「…ぐ…」
その瞳には炎が宿っているように思える。
ゆっくりと近付く彼を前に、リューナは少し後ずさった。
「…」
デュエルで負けたからと言ってリアルファイトに持ち込むのかと警戒を強める。
黙って見ている遊星とクロウは彼の言動に気をつけつつ、いざとなったら彼を止められる位置についた。
だが。
「次は負けんぞ!!」
咆哮するジャックはガレージの中に入って行く。
頭を傾げるリューナはその背中を見送るが、どうしたらいいのか分からない。
遊星を見上げるが、彼は肩をすくめて何も言わない。
「…買い物に行きたいのだけど…今入って大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃねえか?荒れてる感じではなさそうだし」
「…」
リューナが発した言葉を肯定したクロウが先導して中に入る。
彼の背中から部屋の様子を見てみるが、確かに荒れてはなさそうだった。
その代わり、デッキとのにらめっこに忙しそうではあったが。
「…じゃあ、行ってくるわね」
「ああ、頼む」
「おー、気をつけろよ」
エコバックを手にかけ、リューナはジャックの背中を見つめる。
腕を組み椅子に寄りかかる彼の、ふと見えた表情は真剣そのものだった。


「ジャック」
「何だ遊星」
トゲトゲしたオーラを出す彼に、遊星は平然と近寄る。
そして一枚のカードを差し出してジャックの隣に座った。
「このカードを使ってみたらどうだ?彼女のデッキを破るにはいいカードだと思うが」
「…ふん、そうだな…」
よほど悔しかったのか、ジャックはそれを素直に受け取る。
それをしげしげと見つめる彼は全神経をデッキに注ぐ。
遊星がその場を離れたことにも気付かずに、ジャックはサイドデッキを取り出した。






「ただいまー」
ぱんぱんにバックを膨らませたリューナが扉を開ける。
てくてくと食材を持ちながらリビングへと歩く彼女がジャックの隣を通り過ぎた時、彼に肩を掴まれた。
「っ…!?」
びっくりして玉ねぎが1つ落ちる。
それにも構わず、ジャックはリューナを離そうとはしない。
「おい、デュエルだ」
「ええ!?」
突然の申し出に、彼女の肩が跳ねる。
エコバックをひったくったジャックは、彼女にデュエルディスクを着けるように促した。
「やらんとは言わせんぞ…!」
リベンジに燃えるジャックの雰囲気は怖いの一言に尽きる。
純粋なデュエルへの欲を剥きだしにする彼に、それでもリューナは断るしかない。
「…ごめんなさい…、後でもいいかしら…」
「なっ…!」
「ご飯、作らないと…」
彼の力が弱まったことをいいことに、リューナは床から玉ねぎを拾い上げる。
貴方の分の夕食がなくてもいいなら受けるけど、と言われたが、年頃の男性の食欲はそれを許さなかった。
「…さっさと作ってしまえ!」
「ごめんなさいね」
どか、と椅子に座り直すジャックの横を、今度こそリューナは通り抜ける。
昂った気持ちをどう処理しようか悩むが、やはりデュエルでしか満たせなさそうで。
さんざんデッキを調整したはずのジャックは、もう一度デッキホルダーに手をかけた。


「おい、もういいか」
「ごめんなさい、今御茶碗洗ってて…また後で」


「おい、デュエルだ」
「ジャック…私これからお風呂に入ろうと思うの」


「まだか」
「もう寝るところなのだけど…」


散々に断られるジャックのタイミングは中々悪かった。
彼女がフリーになったころに彼に用事が出来るものだから、中々デュエルは出来ない。
夜の10時頃に遊星の部屋を訪れたジャックが、布団に横たわる彼女に断られた瞬間、更に運の悪いことに部屋の主が戻って来た。
「…ジャック、こんな夜に女性がいる寝室に入るのは感心しないな」
「なっ…!」
「遊星…ジャックはそんなつもりじゃ…」
「そうだ遊星!オレは純粋に…!」
「例えそうでも、今からはうるさくて近所迷惑になる。控えたほうがいい」
至極真っ当な意見を述べる遊星に反論する隙はない。
納得したジャックは扉を閉めて、自分の部屋に帰っていった。
一呼吸おいて、部屋の雰囲気が元に戻る。
リューナが怯えていないことを確認した遊星は、彼女に話しかける。
「それにしてもジャックに勝ってしまうとはな…」
「…いい動きをしてくれたもの」
デュエルディスクに手をかざす。
そこからはモンスター達の、嬉しそうな声が聞こえてきた。
「確かに引きがすごく良かった。まるで次のドローが分かって行動しているかのように」
「…まるで、ではないのだけどね」
「…?」
「…ジャックには内緒よ?」
困ったように笑うリューナはそれ以上何も言わない。
もう眠いわ、とあくびをして布団を被る彼女を見て、遊星も寝ることにした。



「デュエルだ!」
「…朝から元気ね」
起きぬけにこの一声。
朝食当番の遊星が起きて活動した後に起きてきたリューナは、部屋を出ると同時にジャックに話しかけられた。
彼の腕には、すでにデュエルディスクが装着されている。
「逃がしはせんぞ。今ならいいだろう」
「…」
確かに、断る理由は今ならない。
少し考えてリューナが首を縦に振ると、ジャックの表情は明るくなった。
「ふん、それでこそデュエリストだ。さあさっさと表に出るがいい」
「…分かったわ」
部屋に戻り、デュエルディスクを腕につける。
大きなあくびをひとつしてジャックと合流したリューナは、外へと向かって歩いて行った。
途中リビングで遊星の視線を感じたが、彼は特に何も言わない。
しかし心配は心配であるらしく、火を止めてそっと二人の後に続いた。
「さあ、昨日のようにはいかんぞ」
「…分かったから、もう少し声小さくしてくれるかしら」
「いくぞ!」
「(聞いてないのかしら…)」
「「デュエル!」」






「…っ!!」
炎の掌底。
レッドの一撃を受けたリューナのデュエルディスクからライフポイントが0になったことを知らせる音が響く。
そろりと目を開けて衝撃が去ったことを知る彼女だが、視界に入ったジャックの瞳はギラついたままだった。
「…?」
「…貴様、手加減したな?」
「!?」
そしてこの言いがかり。
訳が分からなくて目を白黒させると、ジャックは全てのカードをデッキに戻してシャッフルする。
遊星の呆れたような眼差しも、彼の闘志の前では無力だった。
「もう一度だ!」
「えええ…」
訳が分からない。
寝起きで頭が回らない上に再デュエルとは。
あくびを手で隠す彼女を見たジャックは、む、と額にしわを寄せた。
「…それか」
「え?」
「寝起きだから昨日のようなデュエルは出来ないのだな?」
「…そうかも…」
「なら今からはもうやめだ。またあとでデュエルするとしよう」
思考がしっかりしている時に再戦を。
律儀なのか紳士なのかは分からないが、とりあえず今はやめてくれるらしいとリューナは安堵する。
じゃあもう少し後で、と彼女が言うと、ジャックは笑って拳を突き出した。
「?」
「ほら、お前も」
「…?」
言われた通りにグーを作り前に出す。
ジャックはその手に自らの手をぶつけると、上機嫌でポッポタイムに戻って行った。


「…おい、そろそろいいか」
「ちょっと待ってったら」
布巾でテーブルを拭く彼女にジャックは懲りずに声をかける。
そのうち
「オレがやるからお前はさっさとデュエルの準備をしろ!」
という声が聞こえてきて、階段の踊り場でそれを耳にしたクロウが「これは使える」と判断する。
なら、と、彼女がデッキを広げて調整している間、ジャックの隣に移動した遊星が何かを囁く。
客観的に2度の観戦をした彼からのアドバイスをジャックは受け止めて頷いた。
か細い声の内緒話はすべてリューナに勝つためのものである。
クロウの地獄耳もそれを捕えて、遊星の隣に移動してジャックに何かを呟くが、リューナに不審に思われることを恐れたジャック自身によって阻まれてしまった。


「おいリューナ、デュエルするぞ」
「今お昼作ろうと思っていたのだけど」
「ジャック、お前が手伝えばデュエルする時間が長くなるぞ?」
「…くっ…!」


「リューナ、今ならよかろう」
「そうね、今なら…」
「リューナ、洗濯物いれるから手伝ってくんねえか?」
「え、ええ、良いわよ」
「っおい!」
「ジャックも手伝ってくれよ。そしたら早くデュエル出来るぜ?」
「…!」


もしかしてこれはクロウの策略なのかとリューナが思う程にジャックは彼の言うとおりにする。
デュエルの力とはすごいものだと感動すら覚えながら、リューナはデュエルディスクを構えてジャックに向き直った。
もう今は、自分たちを邪魔するものは誰もいない。
リベンジに燃えるジャックを冷静な瞳で見つめて、リューナはデッキに応えるように願った。




クロウにこき使われた(と思っている)ジャックが鬱憤を晴らすように生き生きと展開する。
レッドだけでなく、持てる全ての力を見せつけてジャックはジャックのデュエルをした。
「行け、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」
「バトルフェイズ開始時、リビングデッドの呼び声発動、氷結界の虎将ガンターラを墓地から特殊召喚。…これにより守護陣の効果が発動し、守護陣の守備力以上の攻撃力を持つレッドは攻撃宣言することが出来ない」
「ぐ…!」
「やっぱりロックは厄介だな…ジャックの攻撃が全部いなされてやがる」
「…ああ」
リューナの目の前に出来た壁はレッドの攻撃を押し返す。
ガチ、と氷で腕が固まっていくのを忌避する龍は急いで離れて飛び退いた。
「く…ターンエンド!」
「なら私のターンね」
デッキトップに手をかけるリューナの瞳に、ジャックは吸い込まれるような錯覚に陥る。
それに捕らわれて彼女の宣言を聞き流してしまっているとバトルフェイズに入っていたらしく、彼は再び氷のブレスに穿たれた。
「…っ!!」
「…」
何をボサッとしているんだと自らを叱咤するように地面を叩き、もう一度と睨みつけるジャックに困惑するリューナはそれでも断ることはしない。
デッキから5枚カードを抜いて手札に加え、今度こそはと妖しく笑うジャックに呆れた視線を向けながら観戦する遊星とクロウが、この日一日ポッポタイム前で見られたという。


「…これ、いつまでやんだろな」
「…さあ」
「かれこれ2回はジャック負けてねぇか?」
「……いや、これで3回目だ」
「…っおのれ…!」
「…ねえ、まだやるの?」
守護陣ですら呆れた瞳をジャックに向ける。
その彼が「勝ち逃げは許さん」と声を張り上げるものだから、リューナは止めるタイミングを失ってしまった。
「くっ…まだまだ!」
「…もう疲れたのだけど…」
この調子だと解放されるのは当分先であるように思えてくる。
その「当分先」を迎える前に、ジャックの心がゆっくりと、「恋心」というものに変化していったことは誰も知らない。



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「スタンディングデュエルオンリーのヒロインが、ジャックにうっかり勝ってしまい、以後付き纏われる…。甘いよりもグダグダで、遊星他全員呆れ返って、ジャックに勝つ為のアドバイスをだすも、連戦連敗のジャック…。」というリクエストでした。
ジャックアトラス大好き人間様この度はリクエストありがとうございました!


ど…どうですかねこれ…
本当にグダグダになってしまって申し訳ありません…!
1回ジャック勝っちゃってますが、これは夢主が寝ぼけ半分だったからです。
間違ってカード発動したり効果を間違ったりしたからです。寝オチ前の私と同じように(聞いてない)

喜んでいただけたら幸いですがお気に召さなければ書き直します…!


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