「さあ、私たちとデュエルだヨ!!」
突如乗り込んできた二人のデュエリスト。
ガレージでパソコンに向かっていた遊星と、隣の机で本を読んでいたリューナの視線は彼女たちに注がれた。
「…どなた?」
どこかで見たことのあるような顔だが、はっきりとは思い出せない。
遊星の腕が自分の前に守るように伸びたことから、彼の知り合いでないことはなんとなく分かった。
それに、彼女達の纏う雰囲気はどう考えても友好的ではない。
「元No3ともなると下のことなんて知らないのネ!」
「アルカディアムーブメントで私達は何度もすれ違ったのに」
「…!」
聞こえてきた単語は懐かしさすら覚える過去の居場所。
元総帥の次はこいつらか、とリューナはデュエルディスクを掴むものの、無意識の動揺は彼女の手を震わせる。
カタカタ音を立てるリューナを背に、遊星は彼女達に向き直った。
「…何が目的だ」
冷たい声での威嚇だが、彼女達はさして怯まない。
「別に?"遊び"に来ただけだヨ?」
「そうそう、強いて言うならそこのNo3にデュエルの相手をしてもらおうと思って」
にや、と怪しい笑みを浮かべたことで、それが言葉通りの意味をなしていないことを遊星は敏感に感じ取る。
確実に危害を加えるつもりだと踏んだ彼は、リューナの前からどくことはせずに立ち向かう。
「やだー、ラブラブじゃないノ!」
「見せつけてるー!」
きゃあきゃあ囃すが、リューナと遊星の表情は崩れない。
彼の後ろから大きく長い溜息が漏れて、決意を固めたらしいリューナが顔を覗かせた。
その手の震えは収まっている。
「やるならやるわよ。表に出なさい」
デッキをシャッフルさせて歩を進める。
カツ、とブーツを鳴らして追いやろうとするが、彼女達の顔から余裕の笑みが消えることはない。
「ねー、せっかくだからタッグしようヨ」
「2対2で丁度いいでしょ?見せつけるくらいだもの、出来るよねえ?」
二人はVサインを作ってそれぞれ遊星とリューナに見せる。
ちらりとリューナが遊星を見ると、彼は一度頷いた。
というより、元々彼が相手をするつもりだったらしく、既に準備を整えている。
「やっぱり見せつけてるのネ!」
「妬けちゃうかも!」
きゃはは、と笑う二人を前にリューナは頭を抱える。
こんな強烈な人達がいたら確実に記憶に残るはずなのに、と脳内を探るが、彼女達の言う「すれ違った」記憶すらない。
せめてどんなデッキでどんな戦法をとるのか知っていたら遊星の助けになるのに、と振り絞るものの、そもそも名前すら出てこない。
うーんと唸るリューナに、遊星は「俺が守るから安心してくれ」と囁くが、彼女の懸念はそこではなかった。
というよりも、これは遊星に守られる訳にはいかないデュエルのはずで。
彼の申し出をありがたく思うが、リューナの意思は別の方向で固まった。





「あっは!いかついモンスターネ!」
ロード・ウォリアーを前にケラケラ笑う彼女のフィールドにはガスタ・ガルドが1体。
どうして余裕が生まれるのか分からずに眉をひそめるリューナは、未だに彼女の戦い方を思い出せずにいる。
「でもそんな子蹴散らしてあげるワ!緊急テレポートでガスタの巫女ウィンダを特殊召喚!」
「チューナーと非チューナーが揃った…」
「くるか…!」
緑の光の輪が出現し、モンスターを包む。
大きな力が近付いてくることを察知した遊星はリューナの前に出て守る体勢に入った。
やがて姿を現すモンスター。
それを認めると、彼女は墓地に素材として送ったモンスター2体を取り出してデッキに加える。
「ダイガスタ・ガルドスの効果、墓地の「ガスタ」モンスターを2体デッキに戻してモンスター1体を破壊するワ!」
「なっ…!」
ガスタ・ガルドが大きくなりウィンダを背に乗せたシンクロモンスターは、杖に力を溜めるとそれをロード・ウォリアーに向かって放つ。
抵抗する術のない遊星のモンスターはそれをもろに受けて打ち砕かれた。
「っく…」
衝撃の余波が風となって二人を襲う。
あらかた遊星がその身で受けることになったが、それでもリューナまで流れ着く。
「まだまだ終わらないヨ、ガルドスでダイレクトアタック!」
今度は鳥の方が口にエネルギーを集める。
そしてリューナに狙いを定めると、それを勢いよく解き放った。
ごお、と突風が巻き起こる。
これはさっきのあの衝撃では済まないと遊星が前に躍り出て彼女を庇おうと手を広げるが、後ろからその本人に前に出られてしまった。
「リューナ…っ!?」
「っきゃぁあ!」
当たる直前、リューナは遊星を横に押して直線上からどかす。
自分がふっとんだ際に彼を巻き込むことを危惧したその行動は、逆に遊星を悲しませるだけだった。
今は自分が前に出るべきターンであって、彼女が攻撃を受ける謂われはないはず。
確かにライフは共有であっても、リューナが傷ついていい訳ではない。
「うふ、やっぱり見せつけてるのネ、私はこれでターンエンドだヨ」
「らぶらぶねえ!」
穿たれた風によって地面に叩きつけられたリューナを助け起こして、遊星は二人を睨みつけた。
どうして次が自分のターンでないのか歯を食いしばりながら遊星は己の不甲斐なさを悔いる。
「大丈夫か!?」
「ええ、このくらいどうということはないわ」
ぽんぽんとスカートと上着の汚れを払い、リューナは笑顔を向ける。
その微笑みすら、遊星の罪悪感を刺激してやまない。
「さて、次は私のターンね」
「ええ、かかっておいでヨ!」
ちょいちょいと人差し指で挑発する彼女とそのパートナーはその行動を後悔することになる。

遊星の逆鱗に触れたために。





「結構骨のある子たちだったわね」
負けた二人を追い返して、遊星とリューナはガレージへと戻る。
それなりの展開をして、それなりの展開をされて、そして遊星による1ターンキルでデュエルは締めくくられた。
やれやれと息をつき、本の続きを読もうとする彼女の腕を遊星は掴んだ。
「…大丈夫なのか」
その口ぶりも表情も暗い。
何か不機嫌そうではあっても、その原因が分からずリューナは首を傾げる。
「大丈夫じゃないかしら、アルカディアムーブメントに所属していた人達の大半は身寄りがあるはずよ。あの子たちも多分親がいるはず」
「そうじゃない」
「…?ああ、結局誰か思い出せなかったわねえ…そう聞かれたら私の記憶力大丈夫じゃないのかもしれないわ」
「違う!」
声を荒げる遊星に、リューナは肩を跳ねさせる。
彼はつかつかと彼女に歩み寄ると、問答無用で服のファスナーを下げた。
「っ!?」
袖から腕を抜いて脱がせると、後ろを向けさせる。
ば、と肌着をもめくって背中を見ると、遊星の表情が歪んだ。
そこには、決して小さくはない青あざが。
「…」
「ああ、それ…」
「…っ、こんな…!」
俺を庇った時か、と彼の声が聞こえる。
遊星がそこまで言うならまあまあ酷いことになっているんだろうなと呑気に思考を働かせていると、今度は身体を彼の正面に向けさせられた。
「…どうして、あんなことをしたんだ…!」
「あんな…?」
「俺を、どうして庇ったんだ…こんなになってまで…」
ぐ、と抱き締められて苦しいが、それ以上に心が痛い。
彼を傷つけないためにしたことが却って彼を傷つけることになるとは思わず、ただリューナは謝ることしか出来ない。
「…ごめんなさい」
「謝って欲しい訳じゃない…理由を知りたいんだ」
俺はそんなに頼りないかと続けられてしまって、リューナは首を横に振る。
どうやら真実の理由を言わないと解放されないらしいと分かった彼女は、遊星の背に手を回して口を開いた。
「…貴方ばっかりだもの、傷つくの」
「…」
「それに、あの子達はアルカディアムーブメントにいたと言った…なら、私がケリをつけないといけないわ。遊星を巻き込んで傷つける訳にはいかなかった」
聞けば聞く程、今更であるように思える。
以前ディヴァインが来たときだって、不埒な輩に道で絡まれた時だって守ったのは自分であるはず。
リューナ自身意識していない「女同士の意地」を彼が読みとれるはずもなく、遊星は腕に力を込める。
守ってやれなかったことが悔しくて悲しくて涙が流れるが、それを彼女に悟られる訳にはいかない。
黙ったまま抱き締めて背中を擦って、なんとか気持ちの整理をつけようとする。
静かなガレージの中では二人の呼吸音だけが響いた。


やがて遊星は椅子を引いて座ると、リューナを自身の膝に乗せる。
「もう、あんなことは許さないからな」
「…」
「俺を守ってリューナが傷つくことなんてあってはならない」
「…遊星はいいの?」
「俺はいい。リューナはダメだ」
言い切る遊星は自信に満ち溢れている。
どうして、と聞くが、理由は理由になっていなかった。
「俺が嫌だからだ」
「なっ…にそれ…!」
すっきりした顔でリューナの頬を撫でる遊星の意志は固い。
「俺に守られるのは嫌か…?」
「…嫌じゃない…けど…」
「ならいいだろう、この先も俺に守らせてくれ」
「…っ!」
至極真剣な表情で言われたリューナは顔を赤くして頷くしかない。
「遊星が傷付くのは嫌だ」と言うものの、遊星の腕の力と胸板が心地良くて、彼の包容力を思い知ることになった。



「…俺を心配させた罰だ、今日1日、俺に抱かれていて貰う」
「は?」
「俺の腕の中から離れることは許さない」
強烈な罰を言い渡されたリューナは、遊星の顔を見て本気かどうか探る。
しかし彼の表情は本気としか言い様のないもので、彼女は大人しく遊星の腕に捕らわれることにした。


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「いつも守ってくれる遊星を逆に守る、ほんのりシリアスな話」というリクエストでした。
くらか様この度はリクエストありがとうございました!


元団員をなんとかキャラ付けしようと思ったら強烈になってしまった…
でも他の設定が出てこなかったので許してください…!
喜んでいただけたら幸いですがお気に召さなければ書き直します…!


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