そいつはオレより年上のくせにチビで馬鹿で抜けていた。少なくともオレ達にはそんな面しか見せてくれなかった。
「ねー、キルアー。アイス食べよ」
「ねー、キルアー。ゲームしたい、一緒にやろ」
「ねー、キルアー、」
ガキみたいに我が儘で、だけどどうすれば自分の欲求が1番満たされ易いのかが解っていて、だから彼女の要求を断ったことはなかった。
仕方ねェな、と笑って。それが誤魔化された彼女だと、きっと何処かで知っていたのに。
ただのうのうと、与えられた日常を享受していた。
*
「キルア、どうかしたの? さっきからずっとボーッとしてるよ」
「ああ……悪い、なまえのこと思い出してた」
「そういえば、しばらく会ってないね……なまえ、元気かなぁ」
懐かしい夢を見た。連絡先すら知らない、ただの知り合いと割り切れそうな程短い間しか一緒にいなかった、彼女の夢。割り切れないのは、こうして度々思い出してしまうせいだ。
彼女は優しかった。今なら迷いなくそう言える。
チビで、馬鹿で、少し抜けてる。
でも、人を見下さないし、自分を蔑ろにしてでも他人を助けるし、大事な事は絶対に忘れない。
なまえは、オレ達より先に念能力を知っていた。知って、使いこなしていた。
それに気付いたのは別れた後だったけれど。
なまえとは、もうしばらく連絡すら取れていない。連絡先を知らないし、噂も聞かない。
調べようにも一切情報は出て来なかった。名前すら、存在そのものでさえ。
どうやってなまえが生きてきたかなんて知らないことに、漸く気付いた。隠されていることに気付きかけていて、それなのに気付かないフリをした、オレの自業自得だった。
だからこうして時々思い出して、ゴンとの会話に出て来るのがせいぜいだ。
なまえのことをどう思っていたかは今でもよく解らない。忘れられない理由も、今はまだ気付かない。フリをしている。それで良い。
彼女が生きているか死んでいるか、それすら解らない今はまだ。
もしなまえが生きているのなら、会いたいなんて言わない。せめて幸せでいて欲しい。
もしも死んでいたら……オレが死ぬまで、少しだけ待っていて欲しい。向こうで会えたらその時は、きっと。
ここまで気付いてまた知らないフリをするなんて、と嘲笑った。
*
今もまだ覚えている。
きっと一生忘れない。
ほんの短い間しか一緒にいられなかった、オマエの笑顔を。
『ねー、キルアー、』
多くはない、オマエとの思い出を。
――忘れたりなんて、するものか。
130801
僕の知らない世界で様に提出しました。
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