狩人 短編 | ナノ


※移転前のサイト名『涙ノ軌跡』より



もう泣かない、なんて。わかってる、ただの強がりだ。


私は、幼い頃から泣き虫だった。
何か嫌なことがあるたびに、泣いて。痛い目にあるたびに、泣いて。悲しかったり、苦しかったりした時も、いつもいつも泣いていた。

流石に今は、そんなに泣いたりはしない、つもりだったけど。

人間の本質は、そう簡単には変わらないらしい。



だって、君は私の日常に溶け込んでいた。居て当たり前の存在だった。
それが急に消えてしまったから、泣かずにはいられなかった。

私は、弱い。そんなことは、ずっと前から知っている。

『嫌いになったわけじゃねェよ』

君は優しいから、だから私を置き去りにした。それも、知ってる。解ってる。

『オマエには……危ない世界だからさ』

『怪我とか、させたくねーし』

ずるい、ずるいよ。そんなこと言われたら、諦めるしかない。


私は弱いね。だから一緒に――君の隣に居れなかった。

でも、私は――!


『……わかっ、た。いってらっしゃい。大丈夫、私、もう泣かないよ』


涙が、頬を伝って地面に滲みをつくる。あれから何日も、何年も経ったのに、私は今も、泣いている。

君に嘘、吐いちゃった。やっぱり無理だ。君がいないと泣き止めないみたい。



「……なまえ?」


泣き止み方が、思い出せない。

唇が自嘲に歪んだ瞬間だった。
何かに、私の身体が引き寄せられた。懐かしい、懐かしい何か。そのまま抱きしめられる。


「また泣いてんの?」
「……えっ」
「ったく……」


思考が停止、脳内フリーズ。

何で、何で私の目の前に君がいるの?
思考が纏まらずに、単語だけが浮かぶ中で、その疑問だけがはっきりと形を持つ。


「嘘ばっかりじゃん。誰だよ、もう泣かないって言ったの」
「キ、ルア……?」
「他に誰がいるんだよ」


半信半疑の問い掛けに肯定してくれた声。私の記憶よりも低くて、でも確かに知っている声。

大好きな、君の声――。


「な、何で?」
「お、泣き止んだな」


気付いた瞬間、涙が吹っ飛んだ。泣き止み方は、どうやら無事に思い出せたらしい。


「何でキルアが……?」
「なまえが、また泣いてる気がしたから」


少し抱きしめてくる腕の力が緩んで、見上げた君の顔は、優しく微笑っていた。


「……誰のせいだと思ってるの」
「あー、オレ?」
「馬鹿!」
「……ごめん」


今度は、私から抱きしめる。
もう離さない。だって私は。


「独りぼっちで泣くくらいなら、君の隣で泣きたい」


あの日、言えなかった言葉を、何年越しかで伝える。
いつの間にか私よりずっと背の高くなった君は、私の頭上で苦笑したようだった。


「仕方ねェな」


私の頬にくっきりと跡を残していた涙の筋は、ゆっくり溶けていった。


130102

1周年フリーでした。


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