「……食う？」


一瞬びっくりした。
何に、ってキルアが私にチョコを突き出してきたことに。

キルアが誰かにお菓子を差し出すなんて、滅多にない。


だけど、驚いたのは一瞬だった。



「貰ってあげる」


思わずクスリと笑いを漏らしてチョコを受け取る。


「珍しいね、キルアがチョコくれるなんて」

「んだよ、その言い方……オレだってたまには、」

「くれないよね」

「……いいだろ、別に」


ふい、とそっぽ向くキルアだけど、気付いてるんだろうか。

……耳、真っ赤だよ。



クスクス笑ってたら、キルアが睨みつけてきた。

あ、顔も赤くなってる。



「食わないんなら返せ!!」

「食べるって」


チョコレートの箱を開けて、一粒頬張る。

高そうなチョコだ。
濃厚で、苦くて、だけど甘い。


「キルア、これ高かったんじゃない？」

「……それなりに」

「やっぱり」

「けどなまえ、そーゆーの好きだろ」

「わざわざそんなこと気にして買ったんだ？」

「っ!!べ、別に」



またよそを向かれる。
今度は身体ごと。


思わずまた笑ってから、キルアを後ろから抱きすくめた。



「っな!?」

「ふふっ、ありがと」



まだ私より小さな身長は、けれど１年もすれば抜かれるだろう。

だから、せめて今だけは。



「今日、ホワイトデーだね」

「……ああ」

「来年は、こんな高いのじゃなくていいよ」



余裕を見せてもいいでしょう？



「え？」

「だーかーらー」



もう少しだけ。



「来年は手作りね」

「はあ!?」

「楽しみにしてるから」

「ちょ、待てよ、誰も作るなんて言ってな……」



年上でいさせて。



文句を言い出したキルアを抱きしめる力を、少し強める。

言葉を詰まらせたキルアは、そのまま黙り込んだ。


俯いた彼の耳は相変わらず真っ赤で。


それを見て、なんとなく思った。



「好きだよ、キルア」

「……オレも」


何年たってもこの気持ちは冷めないだろう。

私の身長が抜かれても、キルアが余裕を見せるようになっても。


「ずっと、好きだから」


だから、何年後でもホワイトデーのチョコを頂戴。





お返しチョコレート

いつの間にか口の中で溶けたチョコレートは苦みを無くし、ただ甘さだけが残った。


120316

遅刻したホワイトデー。フリーでした。


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