ユミルとクリスタの話を聞くに、二人は何だか凄惨な世界から来たらしい。
言葉にすればこれだけだが、本当に恐ろしい世界だと思う。
巨人が人間を喰らう世界。普通の人間なら抵抗も出来ずに食われるだけ。それも、生きたまま。
食われる前に死ねたら幸運なのだと、衝撃を受けている私にユミルは言った。生きたまま食われるよりは楽だよな、と。
目を見開く私に、クリスタが不安そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
「うん…ごめんね。ちょっと、衝撃的だったから」
この世界には巨人なんていない。
そのことを知った二人は、そういえば何だかとても複雑な顔をしていた。
巨人に支配されるのが当たり前の世界だったのだろうか。私には解らない。解らないのに、こんなにも恐怖している。
だから、きっと、それ以上に怖いのだろう。その世界に住んでいる人は。
「でも私は、直接巨人の脅威を見た訳じゃなくて、聞いただけの話なんだけど」
「そうなんだ……、ん? じゃあユミルは?」
「……一応な」
あ、地雷っぽいの、踏んだかもしれない。
一瞬反応の遅れたユミルに何とも言えない罪悪感を感じてしまって、でもそんなのを表に出すわけにもいかないので。
「じゃあ……さ、此処にいる間は目一杯楽しもうよ。楽しいこと沢山して、美味しいもの食べよう?」
異世界から来た、という話は信じ難い話だけど、だけどきっと嘘じゃない。勘でしかないけど、ユミルとクリスタは悪い人間じゃない。
幸い、この家は私の一人暮らしで、両親が広めのマンションを買ってくれたから、二人くらいはどうにでもなる。お金だって結構貯まってるし、使う予定も無い訳だし。
「え? 此処に居て良いの?」
「後になって追い出すくらいなら変に親切心とか出さないでくれよ」
「うわ、ユミル失礼。大丈夫だよ、二人くらい」
疑って掛かってきたユミルに胸を張って見せる。
クリスタは素直に嬉しそうな表情をした。その直後に遠慮したって駄目だよ。
「二人が何と言おうが、決定事項ね。良いでしょ?」
「……えっと、ごめんね。お世話になります」
安堵したように微笑むクリスタに可愛いなぁ、とほんわかしていたら、ユミルに軽く頭を小突かれた。
「腕長いねぇ、ユミル」
「そりゃあどうも」
これからよろしく、なんて。直後に言われて少しだけ照れた。
よろしく、だって。
何だか素敵な響きじゃない?
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