幼き殺戮人形 | ナノ


生き延びて、私のためにも。

あなたは生きるために生まれてきたのよ。

あなたは、私たちの希望。

私の…私たちの分まで生きなさい。


……死ぬだなんて、絶対に許さない。





「………君、誰?」


イルミ=ゾルディックは思わず、返ってくるはずのない問いを呟いた。

返事がないのは、相手が赤ん坊だから。にも関わらず、問い掛けてしまったのは、赤ん坊が入れるはずのない場所にいたから。

ここ、ゾルディック家の庭は、試しの門をくぐらなければ入れない。そして、試しの門を開けるには、最低2トンを押しやれる力がないといけないのだ。
目の前の見るからに非力そうな赤ん坊には、そんな門を開けることは不可能だろう。それなのに、赤ん坊は庭にいた。まるで、ここにいるのが当然だ、とでもいうかのように。

泣きもせず、ただ自分を見上げてくる赤ん坊に、イルミは無表情で戸惑い……そして、最も賢い選択をした。両親を呼びに行ったのだ。




「……不思議な奴だ」


イルミの父親、シルバは赤ん坊を一目見て呟いた。


「何故ここにいるのか……」


呟きながら考え込む。そして呟いた内容以上に、赤ん坊から感じる底知れぬ雰囲気が気になって仕方がなかった。
ただの非力な赤ん坊が放つ雰囲気は、まるで人間ではないかのようで。


「私、女の子が欲しかったんですの」


イルミの母親であるキキョウは、赤ん坊を調べながら軽やかに言った。彼女もまた、赤ん坊の異常な雰囲気に気付いているのだろう。そして、その雰囲気が気に入ったらしい。


「ここにいたのだから、うちの子にすればいいわ!」


良いことを思いついた、と言わんばかりのキキョウに、それまで何も反応を示さなかった赤ん坊が、表情らしきものを見せた。

……笑顔。

初めて出会った人間に、大した警戒心も抱かずに笑ったのだ、赤ん坊が。それを見たシルバも、また後ろから覗き見ていたイルミも、心中が一致した。
赤ん坊の雰囲気は異常だが、決して悪いものは感じなかったから。例え感じても、興味があることには変わりない。


「では…今日からこいつはうちの娘だ。名前は……エルカとしよう」


こうして、エルカ=ゾルディック……後に殺戮人形として知られるようになる少女が、本当の意味で誕生した。



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