空気の中に毒 | ナノ


あたしは多分、とびきり幸せな女の子ではない。





「お姉ちゃーん、お茶飲むー?」
「……飲む」
「はい、熱いよー。もしかして徹夜明け?」
「ありがとう。一気に仕事終わらせたから。しばらく休むし」
「もー、そういう無理やめてって言ったじゃん!」
「うん、ごめん」
「お姉ちゃん、やめる気ないでしょ」
「んんー……だって一気にやった方が面倒臭く無いし楽だし」

眠そうなお姉ちゃんはどうやら、クロロに情報を売った後、溜まっていた仕事をすべて終わらせたらしい。あたしが整理した依頼は結構な量あったはずだけど、一晩で終わらせたというのだから、すごい。

あたし足手まといかなあという懸念と、いつかお姉ちゃんが体調を崩すんじゃないかという不安。最近あたしに付き纏う思考はどうにも湿っぽいから、あたしはいつも以上に明るい声を出す。

「天空闘技場行くんだよね! 久々だなあ」
「別に私は期限切れても良いんだけど……」
「ちまちま一階からやり直すの面倒臭いよ?」
「えっ、またやるの前提?」
「だって白銀いるじゃん、原作絡まなきゃじゃん」
「ああー……」

原作。実は原作が始まるまで、もう二ヶ月も無い。あたしとお姉ちゃんは、一ヶ月と少し後に行われるハンター試験を受けることになっているのだ。


この世界にトリップしてから、約一年が経った。あたしとお姉ちゃんは念能力を使えるようになったし、始めた万屋はそれなりに顧客も付いた。
多分、順風満帆ってやつだ。

だからこそ、少しだけ不安がある。
原作に踏み込むということ。それは自ら事件に巻き込まれに行くっていうのと同義だから。

お姉ちゃんは「私達がこの世界にいる時点で原作なんて破綻してる」と言っていたけど、あたしはそうは思えなくて。原作を歪ませるのが怖い。ゴンとかキルアとか、主要キャラをあたしの存在が殺してしまうような気がして、それが恐ろしい。

「夕雨」
「お姉ちゃん?」
「……天空闘技場、行く前に少し甘いものでも食べに行く?」
「行きたい!」

お姉ちゃんは人を殺したことがある。隠そうとしているけど、あたしは知ってる。でもそれでも、お姉ちゃんはあたしに優しくて、怖くない。

なのにあたしが自分の存在を疑問視してしまうのは、あたしが弱いから、なのかもしれないと思った。





「お姉ちゃん何食べる?」
「チーズケーキ。夕雨は?」
「んー……、じゃあ生チョコケーキ!」
「え、俺は?」
「白銀なんで今実体化してるの?」
「俺もケーキ食いたいし。あっこら朱雨、あんた夕雨とデートしたかったからって舌打ちすんな!」

あたしがぐちぐち悩んでる間も、あたしの日常は結構賑やかに進んでいて。
あたしは多分、とびきり幸せな女の子ではないけれど、それなりに幸せなんだろうなあと温い幸せを噛み締めた。


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