空気の中に毒 | ナノ


私の妹は、私にとって何よりも大切な人間であり、唯一の家族だ。

血族は、いる。
一応両親を亡くした際に後見人となった叔父と叔母。父方の親戚である彼等は後見人にはなってくれたが、その後の私達の生活のフォローは、殆ど無かった。日々の生活を暮らすためのボロいアパートを与えてくれたこと、最初の内だけとは言い口座に生活費を振り込んでくれたことだけは、感謝している。

当時、妹はまだ10歳で、私も中学生になったばかりだった。
毎日がいっぱいいっぱいだった。幸いなことに、私は母親から一通り料理を習っており、更に口座に多少金があったこともあり、しばらく食事には困らなかった。

『いつ何があるか、わからないからね。料理くらい出来ておかないと』

母は、私と台所に立ちながら、そう言って柔らかく微笑んでいた。

正にその通り。いつ何が起きても可笑しくない。
何てことない日常の最中に、両親は殺されたのだから。

凶器はナイフ。銃刀法に引っ掛かる幅広のそれが、自宅でのんびり過ごしていたはずの二人の心臓に、深々と突き刺さっていた。
その死に様を見てしまった妹は、今でも刃物が苦手だ。当時の記憶は自ら封じてしまったのか、殆ど残っていないようだが、その後遺症は尖端恐怖症として確かに残っている。


私には、妹しかいない。夕雨しか、いないのだ。
だから、私は。





突然意識を失った夕雨を、白銀と二人で古そうなホテルに運んだ。白銀がカウンターに貨幣らしきものを数枚置いただけで、部屋は直ぐに用意された。今だけは女神様様だ。

「説明、してくれるんだよね」

夕雨をベッドに寝かせ、白銀に向き直る。


夕雨が倒れた直後、何も解らずただ妹の名前を呼ぶことしか出来なかった私に、白銀が言った。

「――触発させちまったか。まあコイツ自体が爆弾抱え込んでるワケだし……。おい、朱雨。夕雨を運ぶぞ。説明はそこでする」
「…………、わかった」

何をしたの。何があったの。何で、夕雨は。

問うことしか出来ない自分が、情けなくて、惨めで、矮小な存在に思えて――酷く腹が立った。


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