空気の中に毒 | ナノ


「神様って何なの馬鹿なの」
「万能なんだが何か文句でも?」
「むしろ文句が無いとでも思った?」
「俺に言われても知らん」

「二人とも! 話が進まないってば」

先程、心臓に悪い事実が白銀の口から飛び出した。勿論あたしも衝撃受けたし、一瞬神様とやらを恨んだけども。
口論というか口喧嘩を始めたお姉ちゃんと白銀に、頭がはっきりした。

っていうか、お姉ちゃん遊ばれてるって。気付きなよ。
いや気付いて尚突っ掛かってるのかな。相当ストレス溜まってたらしい。

どうしようも無く苛立った様な姉と、どこと無く楽しげな白銀に、ストップをかけた。

「お姉ちゃん、今更どうしようも無いんだから、苛々するのは解るけど話進めよ?」
「……う。ごめん」

バツが悪そうに首を竦めたお姉ちゃんに少し安堵。
こんな状況でも変わらない姉は、大層心強い。
(相変わらずのシスコン具合で、)

「……で、どういうこと、白銀? 此処が……漫画の世界、って?」
「しかもあたしが知る限り、正直一番危ない世界な気がするんだよねー、HUNTER×HUNTERって」

そう。白銀曰く、あたし達がトリップさせられたこの世界は、漫画HUNTER×HUNTERの世界。らしい。

正直、死ぬ。トリップした意味が無い。
今の時間軸にもよるけれど、キメラアント編に入った刹那死ぬ。人外相手じゃ勝ち目なんてありゃしない。
何と無くの流し読みで、まともに原作を読んでいなかったはずのお姉ちゃんですら、やばいという認識があるのだ。

いや、ね?
ぶっちゃけ原作じゃぽんぽん出て来るからそんな気はしないけど、実際念能力者って目茶苦茶少ないよ。会う確率はかなーり低いし、原作キャラなんて尚更だ。

なので本当ならこの世界でも平々凡々に暮らせる、はず、なのだ。

「面白くないから、それ却下」
「酷っ! あたしら死ぬよ? 多分すっごいあっさり死ぬよ?」

……どこぞの神様(正確には女神の眷属)さえいなかったらね。

「大丈夫だよ、意外にどうにでもなるもんだからな」
「ていうか……さっき白銀、遅かれ早かれトリップ特典付きで死んでた、……とか言ってなかった? あれ、どういう意味?」

少し頭を冷やしたらしいお姉ちゃんが、記憶を手繰るようにゆっくりと口を開く。そういえば、そんなことも言っていたかもしれない。

「何だよ、覚えてたのか。そ、あんたらはこうなる運命だった。生まれた時から決まっていたんだよ」
「は……? 何それ」

――生まれた、時から。

ズキン。
頭の内側が、鈍く痛む。

――コウナル、運命ダッタ。

――生マレタ時カラ、決マッテイタ。


――抗えない、運命(さだめ)が、……


「夕雨!!?」

ぐっ、ときつく目を閉ざす。瞬く間に、意識も、焦ったようにあたしを呼ぶお姉ちゃんの声も、黒く黒く塗り潰されていった。



「――お母、さん」


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