「……なまえ、」
怒ったような低い声に、肩を掴まれたなまえはひくりと怯えたような顔をした。掴んでいるジャンとは結構な身長差があるので、低い声も相俟って威圧感があったらしい。
「な、何? 何で怒ってるの?」
付き合い始めて二週間、今までジャンに真っ向から負の感情をぶつけられたことのないなまえが動揺しているのを見ながら、ジャンは自分の気持ちを落ち着けようと深呼吸をした。
*
そもそもの始まりは、なまえが対人格闘の訓練で怪我をしたことだった。もっと突き詰めれば、相手がエレンだったことである。
「痛っ……」
「? どうした、なまえ」
「、何でもな……」
「おい、擦りむいちゃってるぞ。これか?」
「あー、うん」
ならず者役でナイフを奪われた際に、小石だらけの地面でなまえは手の甲を擦りむいた。心配を掛けまいと誤魔化そうとしたが、エレンに気付かれ手首を引っ張られる。
「大丈夫か?」
「うん、そんなに痛くないから」
「でも一応、医務室に行った方が良いかもな。行こうぜ」
「えっ、あ……うん」
結局、対人格闘はそのまま休んだ。
*
この件でジャンが気に喰わなかった点が二つ。一つ目は対人格闘のペアがエレンだったこと。これはまだ良い。問題はもう一つの方だ。
二人が一瞬手を繋ぎ、その上顔の位置が近かった。
オレだってまだそんな接近したことねぇよ!
……つまるところ、嫉妬である。
二人に他意は無かった……少なくともなまえ側には無かったし、手を繋いだとはいえエレンがなまえの手首を掴んだだけだ。
そう解っていて気持ちが抑えられるなら苦労はしない。
「ジャン……? あの、私何かした?」
ゆらゆらと不安げに揺れるなまえの目に、
もういい、言ってしまえ。
開き直った。
「今日の対人格闘の時、お前エレンと組んだだろ。今度からオレ以外の男と組むな」
「へ?」
きょとり、と目を瞬かせたなまえにぐいっと圧力を掛けるように顔を近付けた。途端、赤面して視線を泳がせるなまえに少し気持ちが晴れる。
「ちょっ、顔近……っ!」
「エレンもこれくらい近付けてただろ」
「え? あ、怪我した時……」
そういえば近かったかも、と呟いたなまえは、少し間を開けてふにゃりと笑った。
「ん、わかった。次からジャン組もう?」
赤くなったまま身長差故に上目遣いで微笑むなまえは、凶悪なまでに可愛かった。
130824
相互記念にえと様へ。これは嫉妬なのか……? という出来ですみません。これからよろしくお願いします。
次ページにておまけ。
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