Present | ナノ


※アオの象徴と空気のコラボ
※夢主とオリキャラのみで学パロ



チャイムの音、一気に広がる生徒達の喋り声。

気をつけー、礼。ありがとうございましたー。

弁当食べようよ、お腹減った。いいよー。あ、俺今日食堂。マジ?めんどくせ。ちょっと男子ー、教室で着替えないでよー。え、お前もう食い終わったの?早弁したんだよ。

騒音と言えなくもない教室の中、朱雨は鞄を持って立ち上がった。途端騒音が少し静まる。教室にいる人間の視線は、中には邪な感情が篭ったものもあるけれど、殆どが好意的なもので、だから朱雨は気にせず教室を出た。

階段を上る。一階分上がったそこは、屋上だ。ほぼ無表情だった朱雨の表情が柔らかくなる。本人は気付いていないけれど。


屋上に通じるドアを開けると、いつものメンバーが揃っていた。


「…ひょっとして、私最後?」
「ひょっとしなくても最後だよ」


朱雨の妹の夕雨、夕雨の3年連続クラスメイトの瑠依、瑠依の親友の紅桜、朱雨と夕雨の従姉妹の白銀。
瑠依と夕雨がクラスメイトになったのをきっかけに出会って、いつの間にか昼食はこの5人で食べるのが当たり前になっていた。

定位置である夕雨の隣に座って、鞄から出した弁当を広げる。
ふっと吹いた風が思いの外冷たくて、首を竦めた。そろそろ屋上で昼休みを過ごすのはキツイかもしれない。

「お姉ちゃん遅かったね」
「ていうかむしろ、みんなが早い」
「俺らのクラス、学祭の話し合いだったからかな」
「ね、割とスムーズに終わったし」

他愛ない話をしながら弁当をぱくつく。
瑠依、紅桜、白銀、朱雨と顔を見つめていた夕雨が、不意に口を開いた。

「そういえばさぁ、どうでもいいけど、あたし除いたみんなの顔面偏差値、無駄に高くない?」
「唐突だな、おい」

でも、確かにそうかもしれない。

紅桜、白銀と半ば人間離れしたような美貌を持った2人と、瑠依、朱雨とやや幼さは残るが間違いなく美人の部類に入る。

ついでに発言者である夕雨は、平均的な顔立ちだが人好きのする性格で、実は何気なく男子からの人気は高い。閑話休題。

「確かにそうかも」

自分の容姿を理解した上でクラスメイトと距離を置いている朱雨が肩を竦める。

「でも1番モテるのは…瑠唯と白銀でしょ」
「まあ俺だし?当然っていうか、仕方ないっていうか。ほら、見た目だけなら美少女白銀だから」
「え、俺モテてないけど」
「白銀ムカつくー」
「白銀黙れ。瑠唯はほら…うん、紅桜先輩が」

朱雨がちらりと紅桜に視線を向けて、小さく笑った。

「マスターに悪い虫が付かないようにするのは、私の仕事ですから」
「紅桜先輩ー、大体賛成ですけど、瑠唯、このままじゃいつまで経っても彼氏できないんじゃない?」
「ていうか、最近じゃ男子が近寄らなくなってきてるよな」
「最近も何も、告白されたことないんだが…」
「…あー、うん。さすが紅桜だわ」

乾いた笑い声を上げる白銀と、大方紅桜に同意の夕雨。一方の朱雨は、

「最近じゃ女子から人気だよね、瑠唯」
「あー、確かに騒がれてる気もするな」

完全にスルーした。お忘れかもしれないが、紅桜に話を振ったのは朱雨だ。
そのことに苦笑した夕雨は、しかし口に出すことはしなかった。


「そうそう、偏差値っていえば、俺らの学力偏差値も高くね?」
「ああ…確かに」

思い立ったように白銀が話題を振る。それに頷きながら、朱雨はがさごそと鞄を漁った。

「中三のトップは俺、上位4分の1に夕雨。高二トップは白銀先輩、ベスト10に朱雨先輩。高三トップは紅桜…か」
「ていうかさ、あたしのスペック低くね?」
「違う違う、夕雨は普通」

決して夕雨の顔が悪いわけでも、成績が悪いわけでもない。ただ、周りが凄すぎるだけなのだ。

「ていうかさ、異常だよ。全教科満点とかさー」
「授業を聞いていれば、そんなに難しいことではないですよ」
「んなわけあるか」
「でも夕雨、結構居眠りしてるよな」
「うっ……」

痛いところを突かれて夕雨は顔をしかめ、ぐたっと前に倒れる。弁当に髪が入りそうになって慌てて顔を上げた時、鞄を漁っている自分の姉に気付き、首を傾げた。

「お姉ちゃん、どったの?」
「ん?今日部活の子に台本貰っちゃったから、ちょっと確認だけしようかな、って」

朱雨は演劇部に所属しているし、彼女の演技力は中々のものだ。ただし…

「朱雨先輩、幽霊部員じゃないですか。なんで台本を?」

幽霊部員だったりする。

「なんか毎回渡されるんだよね」

だから、確認だけは毎回してる。

見つけたらしい台本をぱらぱらとめくりながら、朱雨は面倒臭そうに溜め息をついた。溜め息をつくくらいならやらなければいいのに、変なところで律儀だ。

「あ、台本って言えば!」
「ああ、クラス劇か」
「そうそう。どーしよ。キャストになるとは思ってなかったよ…」
「俺もキャストに入ってるし」
「え、あんたら学祭のクラス企画、劇なの?」
「「うん」」

中三組が頷いた。

5人の通う学校の文化祭まで、残り1週間ちょっと。高三の紅桜は不参加だが、他4人はクラスで参加する。
もちろん演劇部も文化祭には出るのだが、当然ながら朱雨は不参加である。因みに演劇部の子から貰った台本は、文化祭には関係ない。

「マスター達のクラスは劇をやるんですか…白銀のクラスは?」
「俺のクラスはお化け屋敷。んで朱雨んとこが…」
「模擬店」

見るからに面倒臭そうな朱雨は、サボる気満々だ。それを察知した4人は苦笑するが、止めても意味がないので何も言わない。

「でさ、瑠依が主役の男の子なんだよね」
「…あれ、この学校共学だよな?」
「なんか女子が俺を推薦してきて…」
「うん、納得した」

女子からも絶大な人気を誇る瑠依だ、全力で推されたのだろう。女子の勢いは馬鹿に出来ない。あれよあれよという間に決まってしまった図が想像出来て、白銀はクスリと笑った。

「瑠依は主役で…じゃあ夕雨は?」
「主役に片想いする、報われない女の子の役」
「……どんな恋愛劇だよ」

ほい、と何処から出して来たのか台本を、瑠依が紅桜に、夕雨が朱雨と白銀に渡す。
読み始めた3人を尻目に、夕雨は溜め息をついた。

「あー、嫌になるなー」
「どうして?」
「あたし演技苦手なんだって」
「あー…確かに」
「瑠依は割と出来るよね」
「昨年の?」
「そうそう。昨年も主役張ってたじゃん」

昨年みたいにスタッフだったら良かったのに。とぶつぶつ言いながら、ばたんと後ろに倒れる。と、何か思い立ったように勢いよく体を起こした。

「そうだ!瑠依とお姉ちゃんでやってみてよ」
「えっ」
「は?」

突然の無茶振りに虚を突かれて、ぽかんとする2人。そんな2人を置いていったまま、会話は展開していく。

「ああ、いいんじゃね?」
「マスターの王子様も見てみたいですし(これで女子からさらに人気が出れば、悪い虫もつきにくいですしね)」
「紅桜ー、副音声だだ漏れだぞ」
「2人とも賛成でいいよね?というわけでどうぞー」
「って強引だなオイ!?」

我に返って慌てて瑠依が止める。が、聞こえてきた声に動きを止めた。

「『ずっと、好きだったよ』」

台本にあった1節を、朱雨が読み上げている。
主役の男の子を慕う女の子。彼女の最後の出番のシーン。

声音さえ変えて読み上げられた朱雨の声は、最早彼女自身のものではない。
視線で促され、瑠依は渋々口を開いた。

「『でも俺は、君を友達のようにしか見れないよ』」
「『私の方が、あの子よりずっとあなたを好きでいるのに!』」
「『何と言われようが、俺はあいつが好きなんだ』」
「『知ってるよ!!』」

「『そんなこと、ずっと前から気付いてた!』……と。随分と悲しい役になっちゃったね、夕雨」

ふ、といつもの声色に戻った瑠依は、台本を夕雨に返す。そして、珍しくいたずらっぽく笑った。

「どう?瑠依、私の演技」
「ちゃんと部活に出た方がいいですよ、勿体ない」
「面倒臭いから嫌だ」

即答した朱雨を、瑠依は呆れたように見た。

「駄目な奴、でしょ」
「え?」
「今、思ったこと」

不意にトーンの落ちた声で朱雨が言う。きょとんとする瑠依に続けた。

「なんか、みんなにそう思われてるからね、私。『何でも出来るくせにやらないなんて、駄目な奴』って。別にいいよ、どう思っても」
「俺は別に…」
「自分でも思ってるし。変える気は一切ないけどね」

瑠依を遮って続けた朱雨の声に、暗さはなかったけれど、瞳が暗く落ち込んでいる気がして。気がしただけなのだけど。

「そんなこと思ってない!」

思わず、声を上げた。

「……そ、う。ならいいけど」

目を見開いて、驚いたような顔をして。普通を装った声が嬉しげに弾んだのは気付かなかったフリをしようか。

「私、トイレ行きたいから先戻る」

鞄を持って、さっさと立ち上がる。朱雨が立ち去った後に取り残された演劇部の台本を手に取って、夕雨が呆れたように笑った。

「お姉ちゃんてば、素直じゃないなぁ」
「ああ言いながらさ、あいつ瑠依と紅桜のことが大切なんだよ」
「え?」

白銀は立ち上がりながら、瑠依に笑いかける。

「あいつさ、大切じゃない奴の前だと笑わねぇの。愛想笑いは別にして。それがあんたらの前では普通に笑ってる」
「それだけお姉ちゃんは瑠依と紅桜先輩が大切なんだよ」

言葉を噛み締めるように黙り込んだ瑠依とは反対に、紅桜は美しく笑って。

「そんなこと、ずっと前から気付いてましたよ」

さっきの台詞と同じ言葉を呟いた。

「ね、瑠依。今日放課後暇でしょ?剣道部は定休日だし」
「暇だけど」
「よし、じゃあこれ、お姉ちゃんに渡しといてくれる?」

有無を言わさず瑠依に台本を押し付けると、楽しそうに笑って、白銀と紅桜と共にさっさと屋上を出ていった。

受け取った台本を手に持ったまま、空を見上げる。秋の、少し肌寒くも澄み切った空気が、心地好かった。

きっと明日も、ここで弁当を食べるのだろう。何でもないことを話して、何でもないことに笑って。

そうだ、放課後にこの台本を朱雨に渡しにいったら、彼女はどんな顔をするだろう。


昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。屋上と未だ騒がしい校内を繋ぐ扉が、開いて閉じた。



12****

1周年、移転記念にひとみ様へ捧げた物。




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