※『E stato un incontro casuale』番外編
僕の恋人は、僕を煽るのが上手いと思う。
「ん……こ、は……」
寝言で名前呼ぶなんて、王道も良いところ。それでも可愛い、と思う僕は大概綾乃に骨抜きにされてる。
眠ったまま擦り寄ってくる綾乃に小さく笑って、片手で綾乃を抱きしめながら、もう片方の手でさらさらとした髪を梳く。幸せそうな寝顔はあどけなくて可愛くて、誘われるまま唇にキスをした。
「ん……、……こーは? おはよお……」
キスのせいなのか偶然なのか、不意に目を覚ました綾乃の声はまだ寝ぼけていた。微妙に呂律の回っていないその声すら愛しい。
「おはよ〜、綾乃」
にこ、と笑って言うと、片手で抱きしめられている状態に気付いたのか、目に見えて綾乃があたふたしだした。
「え、あの紅覇? これどんな状況?」
「寝てる間に綾乃が僕の方に寄ってきたんだよ〜。だから抱きしめてたの」
しれっと言ってやると、少しだけ綾乃の頬が赤くなる。
「えっ、うそ、ごめん」
「何で謝るの〜? すごく可愛かったよ?」
ぎゅ、と未だに腕の中にいる綾乃を抱きしめると、一拍置いて僕の背中にも手が回ってくる。駄目だ、可愛すぎてパンクしそう。
「……ねぇ、綾乃〜」
「なに?」
「キスしよ」
「えっ」
条件反射的に返された言葉は聞こえないフリで、本日二度目のキスをした。わざと小さくリップ音を立てると、それが恥ずかしかったのかいつも以上に顔が赤くなっている。ここまで赤面してるのは久々かもしれない。
「あは、おはようのキス、なんてねぇ」
自然と綻んだ頬で言うと、綾乃はもごもごと何かを言った。「……かわいい」……丸聞こえだ。
無意識にかもしれないけど、ぐりぐりと頭を僕に押し付けてくる綾乃の方が数倍は可愛い。ただそれをされると顔が見えないので少し不満なんだけど。
「あ、そうだ。綾乃今日暇だよねぇ?」
「暇だけど……なんで?」
「今日は外出ないでのんびりしよう?」
「……うん!」
何と無く二人でいたい気持ち、伝わったんだろうか。ふにゃ、と緩んだ笑顔が可愛くて、夜まで理性持つかな〜、なんてぼんやりと思った。
「……幸せだぁ」
……正直自信ない。
寝起きで口の緩い綾乃に、僕は苦笑するしかなかった。
130409
中編&番外編完結祝いに京子さまに捧げます。
勝手に使ってすみません。あと勝手に中編の略称作ってすみません。
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