2nd Anniversary | ナノ




  有限の刻を慈しもう-2


※続き






それから。5人は思う存分に遊んだ。

トランプをしたり(何故かババ抜きでは白銀の全勝だった)、人生ゲームをしたり(朱雨が物凄く弱かった)。王様ゲームでは、何故か王様になる度に紅桜が瑠唯を指名するという神懸かった現象が起き、瑠唯の顔を引き攣らせていた。

そして今。健康やら美容やらにはよろしくないが、つい昼食を菓子で済ませてしまったこともあり、夕食は真面目に作ろうということで、5人中3人が食事作りの最中である。全員で仲良く、という案もあったのだが、半ば強引に調理班に選出された朱雨が「そんなに人数いても邪魔」とその案を切って捨てた。

調理班のメンバーは、朱雨の他に瑠唯と白銀。日常的に料理をすることの多い朱雨と瑠唯は、それを理由に。白銀に至っては、大家族と言って差し支えない人数分の料理を作ることに慣れているので、選出は当然の流れであった。

そんな訳で、現在部屋には夕雨と紅桜の二人だけが残された状況である。

「珍しい組み合わせですよねー」

そういえば、と笑う夕雨の言う通り、夕雨と紅桜の組み合わせは珍しい。
夕雨は、瑠唯とはクラスで。朱雨とは家で。白銀とは曲がりなりにも従姉妹同士なので、珍しいツーショットにはなり得ない。その点、紅桜とは一緒にいる割に二人きりになるシチュエーションは今まで無かった。

「まあ学年違ったら普通そうか。……にしても先輩、今回よく参加しましたね。受験生でしょう?」

白銀、朱雨に続く三度目の言葉に、紅桜は柔らかく笑って返す。

「マスターと共有できる時間の方が大切ですので」
「あー、先輩っぽい」

その返答に、からからと夕雨が笑う。
しかし、その笑みは紅桜の次の台詞に曇ることになった。

「卒業したら、共有出来る時間は減りますから」
「あ……」

今、当たり前のように5人で過ごしている時間が有限のものであると、今更気付かされた。そして、その終わりの時は、思ったよりも、近い。

「……寂しく、なります」

ぽつり、呟かれた言葉。その言葉は夕雨が思った以上に、その空間に響いた。

「私はいなくなる訳ではありませんよ」
「……あー、まあ、瑠唯といれば会える機会は多そうですけど」

気遣われているのに気付き、とっさに表情を苦笑いに取り繕う。その裏側なんて、今の今まで隠していなかった表情を見ていた紅桜には解り切ったものなのだろうけれど。

「そうですね。受けるつもりの大学も、今の学校に近い学校ですし」

空元気と気付いているだろうに、そこに触れずに話に乗ってくれる紅桜の気遣いを申し訳無く感じると同時に、有り難かった。





空元気のまま、夕食を乗り切る。あの場にいた紅桜以外には、おそらく気付かれていないと思う。朱雨は微妙なラインだが。
(なんせ異常なレベルのシスコンだもんなぁ)
普通気付かないだろう、ということにあっさり気付かれることもあるので、姉については気にしないことにした。

そうして、夜になった。

遊び惚けていた間は忘れかけていた寂寥感が戻って来るのを感じ、夕雨はそれを紛らわせようと、口を開く。

「瑠唯ー……」

我が儘を押し通した結果、今隣に寝転んでいる瑠唯に呼び掛けると、こちらに寝返りを打った彼女に軽く額を小突かれた。

「痛ー」

気の抜けた声を発する夕雨に向けて、瑠唯は何でも無いことのように告げた。

「紅桜はさ、結構よく俺の家に来るんだ」
「……えっ」
「何か違和感あったから、紅桜に聞いた」
「……気付かれてたかぁ」

大丈夫だと思ったのになー、と苦笑いする夕雨に、瑠唯は「気付くよ」と小さく微笑んだ。

「大体、夕雨は隠し事は長時間出来ないタイプだよ。時間の経過と共にボロが出る」
「うわ、白銀」
「ま、流石に飯食ってる時は気付かなかったけどな。……どこぞの誰かさんを除いて」

会話に割り込んできた白銀が、すっ、と視線を動かす。白銀に見詰められた朱雨は、目を瞬いて。

「私?」
「他に誰が。あんた、いつから気付いてた?」
「え? 夕食の時?」
「えっ、俺全然気付かなかったのに。流石朱雨先輩ですね……」
「つーかむしろ気持ち悪い」
「白銀黙れ」

いつの間にかいつもと同じようなテンポで会話が流れていることに気付き、夕雨はくすりと笑みを漏らす。重くなりかけていた気分も浮上してきた。

「……そうだよね。やっぱ、楽しくなきゃつまんないよね」

“現在(いま)”を楽しく過ごそう。後悔が残らないように。

「そーですよね、紅桜先輩?」

今まで静かに4人の会話を見守っていた紅桜に笑いかける。視線を向けられた彼女は微笑み返して、頷いた。
そして、手に持った数本の割り箸を持ち上げた。

「そういう訳ですので、王様ゲームをしませんか?」
「おい紅桜。それあんたがやりたいだけだろ。しかもゲームそのものより瑠唯に命令したいだけだろ」
「何のことでしょう?」
「後ろに隠し持ってるその服はなんだろうなー?」

にこにこと微笑む紅桜と、彼女を言及しつつもにやにやと悪質な笑みを隠し切れずに瑠唯に目をやる白銀。くすくすと心底楽しそうに笑う朱雨と、そんな彼女らに顔を引き攣らせて嫌な顔をする瑠唯。

「じゃあー、王様ゲーム終わったら人生ゲームやろ!」

そしていつも通り、元気を爆発させた笑顔を浮かべた夕雨。

結局その晩、少女達の話し声が止むことは無かった。



140204


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