クリスマス2013 | ナノ




  甘い残り香を半分こ


※本編番外でも良いけどifで
※何にせよ未来の話です、深く考えずにどうぞ
※朱雨とキルアが恋人設定



「メリークリスマス」

発された言葉の内容にテンションが追い付いていなくて、どうリアクションすれば良いものか、とキルアは一瞬迷った。

此処は朱雨達姉妹が借りているアパートの一室である。お世辞にも広いとは言えない室内、だが二人しかいないならば丁度良い広さである。夕雨は気を利かせたつもりか、クリスマスイヴである今日は留守にしていた。

「何ぼーっとしてんの? 食べないわけ?」

結局リアクションを取る間もなくさっさと晩餐に手を付ける朱雨に、考え込んだオレが馬鹿だった、とキルアもフォークとナイフを手に取った。

クリスマスといえば七面鳥、なのだが朱雨は『七面鳥とか面倒臭い、ステーキで良い? 良いよね決定』と表向きキルアに同意を求めたような言葉で肉を焼いた。聞いた時には既にステーキ肉が用意されていたことは、取り敢えず気にしない振りをしておく。

「……ん、上出来」
「自画自賛してんのか?」
「嫌なら食べなくても良いんだけど」
「普通に美味いぜ」
「それは良かった」

下手に口を滑らすと朱雨の機嫌は悪くなるので、細心の注意が必要だ……というのは大袈裟にしても。
実際、彼女は意外と子供だ。流すべきところに一々引っ掛かって、誰かが気付かなければいつまでも足踏みを繰り返す。
その手を真っ先に取れるのが自分、だなんて自惚れは出来ないが、それでも少しは近付けたのだとキルアは思う。

だって今、クリスマスの今日に朱雨と一緒にいるのは、彼女最愛の妹ではない。紛れも無く自分だ。
それが、酷く嬉しい。
なんて言いはしないけど。

「何にやけてるの?」

小首を傾げて見詰めて来る朱雨。狙っているのか天然なのか――前者の気がするのは何故だろう――その仕草が幼くて可愛い。

「可愛い彼女がいてオレ、スゲー幸せだな、と」
「それは何より」

さらりとそれなりに勇気を出した台詞を流されて、キルアは少し落ち込んだ。

「…………んー、」

やけくそで肉にかぶりつくキルアを、朱雨はちまちまと肉を食べながら見遣った。

「ねぇ、あのさ」
「何?」
「私も素敵な恋人とクリスマスを過ごせて幸せ」
「え……っ」

朱雨から出たとは思えない素直な台詞に、キルアは目を見開く。そんな彼にくすりと笑った朱雨は……

「……って言ったら嬉しい?」
「超ムカついた」
「でしょうね」





食事も終わり、食器が片された後。アールグレイのミルクティー、そしてチョコレートケーキが食卓に置かれた。

「シュウはケーキ食わねぇの?」
「ダイエット中」
「ダウト」
「……っていうのは嘘で、あんたが来る前に夕雨と食べたから」
「…………」
「ほらもう、拗ねると思ったから言わなかったのに」
「……うるせぇ、ってか拗ねてねぇ!」

ぐさぐさとフォークでケーキを乱暴に突くと、すかさず「お行儀悪い」と突っ込まれた。叱るでも窘めるでもなく言うだけなのが、何とも朱雨らしい。

「んー、チョコも結構美味しそう」
「オマエ何食ったの?」
「普通に白いやつ」
「ふーん……食うか?」
「いや、いらないけど」
「あっそ」

いらない、と言ったくせにじーっと見続けている朱雨を半ば鬱陶しく思いつつ、キルアはケーキを口に運ぶ。この美味しいケーキは市販のものだろう。朱雨はケーキを焼くのがあまり得意ではないようだから。

「ごちそうさま」
「ん。……美味しかった?」
「美味かったけど……」

何でそんなことを? と尋ねようとした声は、不意に重ねられた唇に遮られた。



甘い残り香を半分こ

遠慮無く侵入してきた舌に驚きつつも、キルアはいつものように対応する。不意打ちに慌てていたのは随分と前だ。
唇を離した時、朱雨は軽く息を乱していた。咄嗟に手を伸ばして抱き抱えるように身体を支えると「、甘い」と小さく耳元に囁いてきた。

(オマエのその声の方がずっと甘いぜ、なんて言わないけどさ)


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