クリスマス2013 | ナノ




  聖夜に告げる想い


※現代パロ
※ジャン→夢主のような何か



俺が好きになった奴は、心底変な奴だった。

誰にでも愛想が良く、顔見知りに擦れ違う度ににこりと微笑んで挨拶。ここまではまだ普通の良い人、だが。彼女の顔見知りには犬猫などのペットも、挙げ句の果てには自然に生きる鳥類まで含まれている。最早変人の域だ。
ちなみに、これは近所の不良も該当するので、幼馴染みの俺がどれだけ苦労したかは解ってもらえると思う。幸い、ここら一帯を屯する不良どもは彼女――なまえの存在にはもう慣れきっているので不安は余り無いが。無いのだが、不良が気安く片手を上げて挨拶をする相手が、小柄で一見大人しそうななまえ、という光景は中々シュールだ。

元々、悪意を悪意と受け取らず、今時有り得ない程善人の塊であるなまえは、容姿の面だけで言うと、まあ、中の中、ひいき目に見ても中の上程度だ。
クラスの奴らと好きな奴をぶっちゃける会(修学旅行最終日の夜にて)でも、なまえが好きだと告げると「また無難なとこを……」と笑われた。
だけどなぁ、おい。お前らなまえを口説くのがどんだけ大変か知らねぇだろ。本当にアイツは鈍感だから、例えば『可愛い』と言う内容のことを十回言ったら九回はスルーされる。ふざけんな。こっちがどれだけ勇気を要してると思ってるんだ。

そんな、たまーに俺みたいな物好きに「付き合ってください!」と告白されては「うん、良いよ。どこ行くの?」とリアルに答える恋愛フラグクラッシャーのなまえでも、流石にストレートに告白すれば解るだろ。
何年か越しの片想い、いつなまえに彼氏が出来るかと悶々とするのはもう勘弁したいところだ。ロマンチックな言い回しでは伝わらないなまえだから、日付だけはクリスマスイヴと決めて、幼馴染みの特権で一日デート権をもぎ取った。なまえはどうせ「ジャンと久しぶり遊びに行く」程度にしか思ってないんだろうが。





「うわぁ……綺麗だねぇ」

近場で一番綺麗なイルミネーションがある場所を選んで、街を歩く。瞳をきらきらと輝かせたなまえは今日も目茶苦茶可愛い。ただしクラスメート曰く、「お前の目には何かフィルター掛かってんじゃねぇの」らしいので、実際は少し可愛い程度なのかもしれない。

「何か食いてぇモンあるか」
「んー……あっ、アイス食べたい!」
「……このクソ寒い中よくアイスなんか食べる気になるよな……」
「良いじゃん、聞いたのジャンでしょー。行こ!」

ぐいぐいと腕を引っ張られるのは、まあ悪い気はしないが。今、顔がにやけてるかもしれねぇから気を付けておこう。

「美味しーい!」

幸せそうにストロベリーソースの掛かったアイスを食べるなまえの横で、ホットココアを飲む俺。いつもなら珈琲を飲むところだが、なまえが「えー、ココアにしてよ、一口欲しい」と言ったため急遽変更した。俺にとってはラッキーだが、なまえは危機感が足りな過ぎるのではないか。不安だ。

「ジャン、はいココアのお礼ー」

不意に小さなスプーンの上に乗ったアイスが俺に向かって差し出される。にこ、と微笑んでいるなまえは俺にとっては凶器になるレベルで可愛かった。いや、マジで。

「……おう」

返事がぶっきらぼうになるのも致し方ないと思う。バカップルでもない限り、男女間では滅多に成立しない所謂「あーん」というものを仕掛けてきたなまえが悪い。
「結構美味ぇな」呟くと、期待通りの笑顔が見られた。





朝から遊び倒したが、アイスを食べる前には既に薄暗くなっていた通りが、食べ終わった後には尚一層暗くなっていた。そろそろ、この心臓に悪い幸せな時間も終わり時だ。
でも、まだだ。まだ終われない。俺にとって最大の難関が、まだ終わっていない。

「行きてぇとこがある」となまえを連れて、最初から決めていたポイントへ向かう。目指すはデカいクリスマスツリーの下。
過度にも思える照明に彩られた、煌びやかなクリスマスツリー。

「綺麗ー……」

一種の感動のようなものを目に宿したなまえが俺を見上げて、言う。

「今日はありがとね、ジャン。すっごい楽しかった」

きらきらと笑って、いかにも楽しそうに言うから、もう良いだろ。今まで頑張っただろ、俺。
無性にしたくなったキスは辛うじて我慢して、なまえの肩を掴む。絶対逃がさねぇ。鈍感なお前にも解りやすいように言ってやるから、よく聞けよ。

「なまえ。お前の事がずっと前から好きだった。俺の恋人になってくれ」

イルミネーションの光を背景にした俺が、なまえの瞳に映っていた。



聖夜に告げる想い


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