ねぇ、もしかしたら私達、出会わない方が良かったのかもしれないね。
「なぁ、何見てんだよ」
「外……雨、降ってるなぁ、って」
「そんなん見て何か面白いのか?」
「別に……」
酷い雨だった。ざあざあと降り注ぐ雨粒が、地面に当たっては弾けている。
いつの間にか部屋に入って来ていたジュダルは振り返らず、外を見詰める。
「時間の無駄だぜ」
「することないし……」
「折角俺が来てやってんのに」
「誰も頼んでない」
こんな雨の日に、いつも思い出す。隣で煩く喋り散らすジュダルを初めて見た日のことを。確かあの日も雨が降っていた。
私は幸せだった。両親がいて、兄がいて。家族の仲は円満で。その幸せがいつまでも続くと信じていた。
その幸せを壊したのはジュダルだった。
たまたま私が家を留守にしていたあの日、血だらけで横たわっていた三人の姿を、私はきっと忘れられない。立ち去る楽しげな後ろ姿も。喉を震わせた嗚咽は、雨音に掻き消されて私にすら聞こえなかった。
二年後、私はジュダルと出会った。ジュダルは何も気付いてはいない。知っているのは私だけだ。
目を閉じる。雨の音は止まない。
「雨降ってるからって部屋に閉じ篭ってたら、紅明みたいになっちまうぞ」
「煩い……私は今そんな気分じゃないの」
「お前、雨降ってると詰まんねぇな」
詰まらなそうにする横顔が、見てもいないのに瞼の裏に浮かんだ。
ねえ、やっぱり私達、出会わない方が良かったよ。
私の幸せを壊した貴方のことが私は大嫌いなのに、貴方の顔を思い浮かべるとどうしても恨めない。いっそ恨めたらどんなに楽だろう。
出会わなかったら私は、貴方の事を恨めたのに。こんなに嫌いにならなくて、こんなに好きにもならなかったのに。
「……ジュダル」
「なんだ?」
「雨、好き?」
「嫌いじゃねーけど好きでもねぇ」
「……そっか」
私は雨が嫌いだよ。貴方を嫌う理由を思い出してしまうから。本気で嫌えない私に罪悪感を覚えてしまうから。
「私は嫌い」
「じゃあ何で雨ばっか見てんだよ」
「嫌いだから……」
「はあ? 意味わかんねぇ」
記憶の中で、三人分の血が雨で流されていく。
雨は、まだ止みそうになかった。
130531
僕の知らない世界で様に提出しました。
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