※現代パロ
『星が綺麗に見えるよ』
たったそれだけのメールを送る彼も、たったそれだけのメールで彼の居場所が解る私も、大概可笑しいのだと思う。
『今から行く』
素早く返信して、必要最低限の物だけ持って、家を飛び出した。
「やっぱりここに居たんだ」
「よくわかったね〜」
星の綺麗に見える場所。昔からそう言ったらここしかない。
そう思って向かった河原には、やはりメールの送り主、紅覇が寝転がっていた。自分用のビニールシートを持参して、その上に寝転がっているのがらしいというか、何というか。
そんな彼の、人一人分だけ開けた隣に座る。
「……綺麗」
見上げた星空は、確かに綺麗だった。あの時と、同じくらいに綺麗な空。都会のネオンに邪魔されない私の街の星空は、何年も前から変わらない。
「懐かしいね〜、中学の時だっけ、一緒に星見たの」
「ん、多分ね。夏休みの課題か何かで」
「そういえばなまえ、夏の大三角は見付けられるようになったの〜?」
「……また懐かしいことを」
中学の一年だか二年だか、夏休みの課題に『夏の大三角を探す』というものがあった。随分前のことのように感じるから、一年の時だったのだろうか。
結局なまえは自力で見付けることが出来ず、紅覇に頼ったことを覚えている。
「あの時なまえ、泣いてたもんね〜」
「泣いてないですー。えーっと……デネブでしょ、ベガと……えっと、」
「見付かんない? アルタイルはあそこ」
指を指して教えようとしてくれるが、数多の星からアルタイルを見付けることは中々に難しく。結局「知ーらない」と拗ねたように仰向けに倒れた。
「ほら〜、見付からなかったからって拗ねるなよ」
「うるさい、あほ」
「可愛くな〜い」
「……余計なお世話」
空を見上げたままの言葉の応酬に、ぎゅ、と心臓を鷲掴みにされたような感覚がした。
『可愛くない』、きっと何の意味もない言葉。何も考えずに返された言葉だと、解っているのに……解っているから、少し胸が痛い。
私が子供っぽく拗ねたからなのか、ただ単にそういう雰囲気だったからなのか。しばらく二人で何も言わずに空を見ていた。
星が綺麗。何も言えない私を、何を思って見下ろしているんだろう。なんて、馬鹿みたいに考えた。何も考えちゃいない、どうせ宇宙空間で燃えているただの塵なのだ。
「なまえは、志望校決まった〜?」
「……まだ、かな」
下らない事をぐるぐると考えていたところに、真面目な話題が振られた。
受験。高校三年の夏にもなると、大半の人間が志望校を選定し終えている。それなのに私は、まだ足踏みをした状況でいた。
行きたい学校がないわけではない。でもレベルが高すぎる。
それに……言えるわけがなかった。『紅覇と同じ学校に行きたい』。
「学校なんてどこでも良いよ、やりたいことも無いし。でも多分……紅覇とは違う学校になるよね。成績的な意味で」
「そうだね〜。学校になまえがいないって、何か変な感じ」
小学校も中学校も、高校も一緒だった。小学生の時は、素直にずっと一緒だと思ってた。中学生の時は、同じ高校に入るために必死だった。
高校生の私は、何をしていたんだろう。紅覇の背中を追い掛けて、追い付けないと知って、走るのを止めた。
「紅覇……」
「ん、何〜?」
「……呼んでみただけ」
なんて、嘘。うそ。
好きだよ。ずっと前から大好きだったよ。
なんで私は、紅覇を追い掛けるのを止めたんだろう。馬鹿みたいにでも追い掛けていれば、もしかしたら立ち止まってくれたかもしれないのに。
もう、遅い。
離れ離れになると解っているなら、想いを告げても辛くなるだけ。
「……そろそろ帰るね。勉強しなきゃだし」
「わかった〜。僕はもう少しここにいるよ」
「……紅覇、」
「何? 呼んでみただけ、なんて言ったら怒るよ?」
「……紅覇も、勉強頑張ってね。志望校、かなりレベル高いでしょ」
頑張らないで、何て言えるほど、素直でも我が儘でもないから。だから私は、紅覇にずっと、足踏み状態で片想いしていたのだと思う。想いを告げることもせず、その背を追うことすら諦めて。
紅覇は知らない、私の想い。言いたかった言葉はもう出てきやしない。
「ばいばい」
大好きだった、君に。
私は静かにさよならを告げた。
song by supercell
130331
花椿様に提出しました。
独りよがりな片想い。
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