「うぐぬぬ…!」
「何やってんの〜?」
「何かこう…もう少ぅし頑張ったら紅覇様抜ける気がして!」
私の主である紅覇様は、男性の割に背が低い。かく言う私も背が低い。
それで、何となーく背伸びしてみたら、紅覇様の身長に届きそうだったので地味に頑張ってみている。
「んー…もう少し…!」
「駄目だよ。抜かさせないからね〜〜!」
「うぐっ」
肩に手を乗せられたと思ったら、体重を掛けて下に押される。重力もあって、私は簡単に地面にへたり込んだ。
「やっぱり弱いね〜。もっと足腰鍛えないと」
「あ、はい。すいませ……じゃない! 何するんですか紅覇様!? 縮んじゃう!」
これ以上縮むだなんて堪ったもんじゃない! ただでさえかなり低い部類なのに!
「え〜〜? ていうか、何でなまえは背ぇ高くなりたいワケぇ?」
「だって大きい方が…何かこう、有利じゃないですか、いろいろ。それに身長で見える世界も違うっていうし……」
とは言っても、父様も母様も小さいから遺伝的な問題で無理があるのだけれど。
それでも身長は欲しい。白瑛様の従者の青舜殿と一緒にいる度に、先輩方に「ちっちゃーい!」「可愛いー!」と言われるのは…心が折れる。二人してがっくりしているところで微妙にフォローになってない言葉を白瑛様に掛けられたりして落ち込むこともしばしばだ。
紅覇様は自身も男性の割に小さいからか、何も言わないけれど。
と、思ったところで拳骨を喰らった。
「いった!」
「お前今、すっごい失礼なこと考えたよね」
「そんなとんでもない。ただ紅覇様も身長低いなー、って痛っ!」
「なまえには言われたくないよ」
「ちぇー。だから頑張って背伸びしてたんじゃないですかぁ」
むっとして言い返すと、紅覇様は小さく息をついて、何事か呟いた。聞こえなかったため、思わず首を傾げて聞き返す。
「え? 今何て…っ!?」
……うん待って。少し落ち着こう。
何で私…え、待って待って。
「伸びなくてもいいじゃん、って言ったの。今のままなら抱き込めるしね〜」
……何で紅覇様に抱きしめられてるの?
「それにほら、この身長差ってこうしやすいしね」
額に紅覇様の呼吸を感じて、ハッと見上げるとそこに柔らかい感触。
キスされた。額にとは言え、突然の事に顔に熱が集まる。
「顔真っ赤〜。……唇は、また今度ね」
「く、くち…っ!?」
「うん。今は上目遣いだけで可愛いからね〜」
「……っ!!」
言葉なんて出やしない。
でも、何でか悔しいことに。
「………でも…」
「ん? な〜に、聞こえないよ〜?」
「〜〜〜っ身長小さいままでもいいかな、って思っちゃっただけですっ!!」
しばらくはこのままでもいいかな、なんて。そんなことを思ってしまった。
130308
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