彼と彼女 | ナノ


ホテルに戻ると、遠征に同行している魔導士達に複雑な顔をされた。許可なく遠征中に女を買ったので、煌に帰った時に兄達に説教のひとつやふたつはされるかもしれない。

魔導士達にも丁寧な自己紹介をしたエリアルは、寝台に腰掛けていた紅覇に向き直った。

「どうしたの〜?」
「私はどのような待遇になるのでしょう」

こんなところが、人身売買された女らしくない。

「どんな待遇が良いの〜?」
「……希望としては、戦闘職ですね」
「そういえばさ〜、エリアルってどれくらい強いわけ?」

さらりと戦闘職を希望する辺り、腕に自信はあるのだろう。気になったことをそのまま聞くと、エリアルは小首を傾げながら答えた。

「三秒間私に触れた敵は命が無いと思ってください」

……判断できない。

「詳しく教えろ」
「私は三秒以上触れている人物の体内の水を操る特殊能力を持っています。無論その他の水を操ることも可能ですが、1番手っ取り早いのは体内の水の操作ですね」

思った以上に恐ろしい能力だった。

「特殊能力ぅ? 魔法じゃないわけ?」
「魔法とは違う能力のようです。私には説明出来ませんが、店にいた女に魔導士がいたので彼女に聞いた話です」
「ふ〜ん……変なの」

説明出来ない、と言う割には随分とはっきり断定するな。
そう思ったが説明はあってもなくても同じなので気にしないことにする。

「他は?」
「身体は丈夫です。以前ファナリスだという少年に思い切り蹴られましたが、軽い打撲だけで生活に支障は来しませんでしたから」
「すごいじゃん」

それは確かに、強い。高い値段も納得がいく。

「うん、気に入った。僕の言うことを聞く、って条件なら、待遇を良くしてやっても良いよ?」
「……ありがとうございます」
「で? 他に希望はないわけぇ?」
「……あるにはあるのですが」
「言ってみなよ」
「外を……自由に外出出来る権利を下さい。必ず紅覇様の元に戻ることは約束します」

随分と強い意志を持った声だった。感情の篭った声はやはり綺麗で、紅覇は即座に返答を決めた。

「条件付きなら良いよ〜」
「条件、とは?」
「無理矢理感情を閉ざすな」

紅覇の出した条件に、エリアルは目を見開いた。紅覇が見る限り初めてエリアルの無表情が動いた。
やがてエリアルは、口許に柔らかな笑みを浮かべた。

「その条件、受け入れます。感謝します」
「うん、そっちの方が良いね〜」

初めて見たエリアルの笑顔は、意外とあどけなくて可愛いものだった。


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