彼と彼女 | ナノ


遠征先の小さな国で見付けた、1番大きな店。大きさは最大だが、賑やかな中心街を避けるようにひっそりと目立たない場所にあるその店に、紅覇は興味本意で立ち寄った。
そして、一目店内を覗いて、直ぐに何故この店が人目を避けていたのかが分かった。

売られていたのは、足首を鎖で繋がれた女達だった。まだ幼い顔付きの少女から成長しきった女性まで、十数人の女。奥にはまだいるのだろう。

眉を潜めた紅覇に、店主らしき男は「いらっしゃい」と気さくに意外と明るい声を掛けた。

「今日はどんなものをお求めで?」
「……別に、見に来ただけだよ〜」

こんな小さな国の裏事情くらい理解しているし、この店を潰したところで紅覇や煌帝国に得るものがある訳でもない。
見に来ただけ、と言い訳らしき言葉で、せっかく来たんだと中を物色する。

「うちのは上等な奴ばかりですよ。まあ貴方は金には困ってなさそうに見えますがね」
「へ〜。上等なんだぁ?」
「ええ。他のと違って健康体ばかりですので」

言われてみれば、と店内を見回すと、怯えたような表情はしているものの弱った女はいない。皆程よく肉が付き、血色も悪くない。

「ここにいるのは一等品ばかりですがね。他をお求めなら奥にもいますよ。勿論品質は保障します」
「ふ〜ん。手は抜いていないんだね」
「大事な商売ですからね」

この店はそこそこ儲かっているのだろう、と紅覇は感じた。
少なくとも見える範囲にいる女全てに上等とは言えないがまともな寝床があり、しかも売り物は全員健康体。他を詳しく知らないので何とも言えないが、それなりに値段は高いのにまだ続いているのは常連がいるのかもしれない。

売り物の女には興味が無かったが……気が変わった。買う買わないは別にして、見ていくくらいは良いだろう。

ひとりずつ視線を定めていくと、殆どの女が逃げるように目を逸らした。稀に目を逸らさない女もいたが、目の奥の怯えまでは払拭できていない。

そんな中、堂々と目を見返して来た女がいた。薄桃色の瞳には、恐怖は疎か何の感情も浮かんでいない。
女が座り込んでいる寝床の前に置いてある名札であろうものを見るに、名前はエリアル。その横に記されている値段は、

「ねぇ。何でこいつが1番高いわけ?」

顔は良い方だしプロポーションも悪くはないだろう。しかし、全体的に他の女には劣る外見だ。
それなのに、付けられている値段はこの中で1番高い。

「おや、彼女に気が付くとはお目が高い」

男は満更お世辞でもなさそうに呟いた。

「彼女は使い道が多いのですよ。基本的に逆らわないし、特に何と言っても戦闘センス。あの伝説のファナリスにだって負けやしないでしょう」
「そうは見えないけどね」
「値も張りますし、信用に値しないなら買わない方が無難かもしれませんがね」

商売上手なのか、男の素の言葉なのか。
そんな言葉を聞くと、余計に気になる。

「まあいいや。信じてあげる。……こいつ頂戴?」

値が張るとは言え、紅覇にとっては何てことない値段だ。

「……お買い求め、ありがとうございます」

男の声がやや残念そうなのが気になったが、紅覇は鎖を外された女、エリアルの前に立った。
エリアルは軽く紅覇に目礼すると、男を見た。

「お世話になりました」

初めて聞いた声は今まで耳にしたことがない程澄んでいて、良い買い物をしたかもしれない、と紅覇は思った。


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