紅覇は決して心の広い人間ではない。どちらかと言えば狭量なのではないかと自分では思っている。
興味があるものだけに真剣になって、手に入れようと躍起になって。時には独占したいとすら思う。
蒼麗は、紅覇にとって独占したい人間だ。恋だなんて甘い物じゃない。執着、独占欲。まだ足りない。
「ジュダルく〜ん」
だから、蒼麗が他人に心を乱されるのは、正直、物凄く気に食わない。
「……なーんだ、紅覇かよ」
「蒼麗に何したの?」
「そんなに怖い顔するなよ。……事実を言っただけだ。それと提案」
気に食わない。この感情は歪んでいる。
「僕の蒼麗を盗らないでよねぇ?」
「まだお前のじゃねぇだろ? 蒼麗次第だよな」
「僕が1番先に見付けたんだからね。絶対逃がさない」
「そりゃあ蒼麗も災難だな」
蒼麗の意思は関係ないのだ。そこにあるのは純粋な狂気染みた独占的な欲望だけ。
それでも、いつか彼女が自身の意思で自分のものになれば良い。それ以上の悦びはきっと無い。
「で、その蒼麗はどこ行った?」
「紅玉んとこでお茶会でもしてるんじゃなぁい?」
蒼麗が紅玉を好いていることは知っている。そこに怒りが向かないのは、彼女の感情が紅覇に向かうそれより大人しいことが解っているからだ。
ジュダルは違う。種類は違えど紅覇に向けたものに匹敵する激しい感情を蒼麗は抱いている。
「っつーか盗るなとか言うくらい大事ならさぁ、そんなこと蒼麗に言えよ。お前の従者だろ」
……それが出来ないのは何故だ。無理矢理奪うことは出来るのに、その行動を無意識に恐れる理由は何だ。
面倒臭げに離れていくジュダルの背を見ながら、紅覇は僅かに首を傾げた。
「紅覇様?」
気付けば後ろに蒼麗が立っていた。怪訝そうな、それなのにどこか嬉しそうな蒼麗に、少し歪んだ感情が真っ直ぐになる。
「そんなところに立っていては風邪を引いてしまいますよ。戻りますか?」
日が暮れかけている。確かに肌寒くなってきているが、紅覇は首を横に振った。困ったような蒼麗の顔は好きだった。だってその顔をする時、蒼麗は自分だけをその瞳に映している。
「えっと……せめて羽織るものを持って来ましょうか?」
「駄目。ここに居て」
「しかし……」
「命令だよ、聞けないの〜?」
この二人きりの状況ならば、彼女の気持ちはきっと独占出来る。子供っぽい欲望に、蒼麗はまた困ったような顔をして、頷いた。
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