純粋に恋をしよう | ナノ


「蒼麗です、失礼します」

声を掛けると、返答より先に紅玉が飛び出して来た。腕を引っ張られながら紅玉の部屋に招かれる。
過去何度も招かれているので今更緊張などしないが、遠慮のポーズを取ると紅玉に窘められた。



紅玉が呼んでたよ、と知らせてくれた紅覇は、蒼麗が知らせてくれたことに礼を言うとさっさと何処かに行ってしまった。

もうすっかり覚えた紅玉の部屋にジュダルに会わないように気を遣いながらも数分で到着した。

「蒼麗ちゃん、今日は美味しい茶菓子が手に入ったのよぉ」
「いつもすみま……ありがとうございます」

すみません、といつもの癖で口にしかけた言葉は、紅玉に見詰められたことですり替えられた。謝ってばかりで紅玉に叱られたのは記憶に新しい。
満足げに笑った紅玉は、夏黄文が運んできたお茶に口を付けた。倣って蒼麗もお茶を一口啜る。香りの強くないお茶は蒼麗の好みに合っていて、すっかり好みの味を覚えられていることを感じた。

「ところで蒼麗ちゃん」

ひとしきり美味しい茶菓子に舌鼓を打った後、紅玉は蒼麗の方に身を乗り出してきた。好奇心で輝いている顔を見て、本題はこちらなのだと悟る。

「何でしょう?」
「それ、いつ結って貰ったのぉ?」

それ、と指差されたのは一つに括られた蒼麗の髪で、いつもと違うのは一筋混ぜられた三つ編みである。
そういえば、朝も髪型のことを指摘された、と思い出した。

「朝、起きて直ぐです。紅覇様、私の部屋にわざわざいらっしゃったのですよ」

心なしか弾んだ声に、紅玉は話題とは関係なく楽しそうな顔をした。気を遣い過ぎる程気を遣う蒼麗が素直に感情を見せてくれるようになったのは、ごく最近のことだ。

「あら、でもそういえば……蒼麗って朝結構早かったわよねぇ」
「そうなんです、紅玉様。私、驚きました。紅覇様ったら私が起きる二時間前から部屋にいらしたんですって。同じ寝台に横になっていましたのに、気付きませんでした」
「……えぇ!? 同じ寝台に!?」

大きな声を上げた紅玉に、蒼麗は頷く。

「はい。私、全く気配に気が付かなくて……」
「違うわよ!」

ズレた返答に、紅玉はガクリと肩を落とした。そういえば、蒼麗はそうだった。有り得ない程異性間のあれこれに鈍い。
蒼麗くらい鈍く隙だらけなら、手なんていくらでも出せるだろうに、紅覇はまだ何もしていないのだろう。蒼麗の信頼し切った態度がその証拠だ。

「……愛されてるのねぇ、蒼麗ちゃん」
「え? 嫌ですね、そんなわけ無いじゃないですか」

何も知らないまま笑った蒼麗の笑顔に、紅玉は思わず笑顔を零した。
愛されてる、と言われた瞬間、少しだけ嬉しそうに見えたのは、きっと気のせいじゃないだろう。

「(いいなぁ……恋してるのね)」

本人はきっと気付いていないけれど。


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