「蒼麗、やっぱりここなんだぁ」
見〜つけた、と笑う紅覇が屋根に登ってきて、蒼麗は目を見開いた。
「こ、紅覇様? 私に御用でしょうか」
蒼麗は戦闘面以外ではあまり役に立たない。戦闘面でも男性には劣るのだが、まあそれは置いておくとして。
今まで、紅覇が蒼麗を探しに来たのは両手で数え切れる程しかない。その全てが同じ場所で見つかっているので、冒頭の台詞は理解が出来る。
問題は、何故紅覇がわざわざ役立たずの蒼麗を探しに来たか、である。
「用が無い訳じゃないけどぉ……それより蒼麗」
「何でしょう?」
「機嫌悪い?」
呆気に取られて見詰めてくる蒼麗に、紅覇はやっぱりね、と笑って何気なく蒼麗の隣に座った。
「どうしたの〜?」
「……あの、神官殿が、」
「ジュダルくん? お前、相変わらずジュダルくんと仲悪いよねぇ。何で?」
「紅覇様がお気になさることではありません」
「えぇ〜」
珍しくきっぱりと紅覇の疑問を跳ね退けた蒼麗が何と無く面白くなくて、ぐっと俯きがちの蒼麗の顔を下から覗き込むように見詰めた。言え、と目で促されて拒否し切れなかった蒼麗は、口ごもりながら呟いた。
「えっと、ただの私怨、です」
「私怨ん? ジュダルくん何かした訳ぇ?」
言葉面だけではジュダルに味方するような言い方だが、実際は面白がるような言い方で、それに安堵しながらも理由を言うのは憚られた。たかが従者の分際で、迷宮にお供したかった等ただの我が儘に過ぎないことは蒼麗も理解している。
「少し……いろいろありまして」
「少しって?」
「え……あの、」
とことん聞き続ける紅覇に、うっ、と詰まりながら蒼麗はそっと目を逸らす。
「言えないの〜?」
「あの……」
「ふ〜ん」
呟くように吐かれた紅覇の言葉が妙に冷たく感じて、蒼麗は「じゃあいいや」と立ち上がりかけた紅覇の袖を咄嗟に掴んで引き止めていた。
「あっ……! すいませ……」
慌てて手を離した蒼麗の隣に、紅覇は元のようにすとんと腰を下ろした。
「なぁに? 話してくれるの〜?」
意地悪く笑う紅覇に怒った様子が無かったことは良かったが、それでも今更なんでもない等とは言えず、蒼麗は俯きながら小さく口を開いた。
何だか今日は、あまり物事が上手く進まないようだ。
「……神官殿が、紅覇様が迷宮に行くときに教えてくださらなかったので……そのことを」
そう言って恐る恐る紅覇を見上げると、紅覇は両手で顔を覆っていた。
「紅覇様? あの、すみません、私出過ぎたことを……!」
「違うよ〜、それは別にいいの。僕はそう思われてて嬉しいからねぇ。(それにしても、すっごい殺し文句だよ、今の)」
長い髪と両手に隠されながらちらちらと見える紅覇の耳が紅かったことに、蒼麗は全く気が付かなかった。
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