純粋に恋をしよう | ナノ


夢を見た。懐かしい夢だった。

動かない家族の身体。血に染まった壁と布団。血溜まりの出来た床が、ピシャッと冷たい音を立てる。

「お前で最後だよ、ガキ!」

耳障りな男の声。

嫌だ、こっちに来るな、私に触るな。

必死の思いで私は何かを手に取った。
怖かった。悲しかった。それ以上に許せなかった。

がむしゃらに手を振ると、手に持ったモノが男にぶつかった。何かが倒れ込む音、何度目かの血液の飛び散る音が耳に届く。

そうして私は漸く気付いた。私が手に持っていたのは、何のためか父親が所持していた短剣だったことに。


これは、私がまだ10の歳を数えない頃の話。血に塗れた私の格好が原因で、私はこの後とある人物に気に入られることになる。




久々に見た過去の夢から、ゆっくりと意識が浮上する。目を開いて真っ先に目に入ったのは、いつも通りの天井だった。

夢見が悪かったせいか固まった身体に苦笑しながら、蒼麗はふと横を向く。
そして予想外の光景に目を見開く羽目になった。

「おはよぉ、蒼麗」
「え…ちょ、待って下さ…え?」

混乱する蒼麗を楽しそうに見つめるのは、蒼麗の仕える主――煌帝国第三皇子、練紅覇であった。

「こ、紅覇様……?」
「どうしたの〜〜? 僕がいちゃ悪い?」
「…いえ、でも、あの、」

当然の様に蒼麗のベッドに居座り、そこにいるのが当たり前とでも言わんばかりの紅覇だが、勿論の事ながら主たる紅覇と従者である蒼麗の部屋は別々だ。

不思議に思いつつも、紅覇の言葉に返す言葉が見つからない。別にここにいることが悪い訳ではないのだ。

「それにしても蒼麗って、寝相いいんだね。僕が見てる限り、一回も動かなかったよ」
「……あの、紅覇様。いつから…?」
「二時間くらい前からだよ〜」
「…………」

本当に何をしに来たのだろう、と蒼麗は首を捻った。現在の時刻だってまだ朝早いと称される時間だ。その二時間前と言えば、朝早いどころか夜明けではないか。

「睡眠不足は良くないです、紅覇様」
「……何でそんな結論になっちゃったの」

夜明けからいた、つまり睡眠時間が短い、と解釈した蒼麗が心配して言うと、紅覇は苦笑いをして溜め息をついた。紅覇の笑い顔は、いつも割と無邪気な笑顔であるため、苦笑は珍しいのだが、蒼麗の前では苦笑いが多い。それもこれも蒼麗の異性への危機感がなってないからなのだが……。

だいたい今だって、確かに紅覇がベッドに居たことには驚いていたが、異性が同じベッドに居る状況に焦らないことがまず可笑しい。

「あの、紅覇様?」
「何〜?」
「何故私の部屋にいらしたのですか? 何か急用でも…?」
「べっつに〜〜…蒼麗の顔が見たくなっただけ」
「へ…?」
「(あ、反応が)」

一瞬目を瞬いたかと思うと、蒼麗は微かに頬を染めて俯いた。成る程、彼女はストレートな言葉には弱いらしい。

「どうしたの〜〜?」

それに気付いてクスクスと笑いながら、紅覇は幾分か背の低い蒼麗の顔を覗き込んだ。

「な、何でもないですっ!」
「え〜? 本当?」
「本当です! 着替えるのですいません失礼しますー!」

まだ頬に微かな熱を持った蒼麗は、珍しく…一応朝早くなので抑えてはいたが大きな声を出した。そしてそのまま勢いで部屋を出ようとして、紅覇に髪を一房、掴まれた。頭皮が引っ張られる感覚に、思わずベッドに逆戻りする。

「い…っ」
「どこ行くの? お前の部屋はここじゃん」
「で、でも!」
「着替えたら呼んでね〜、外で待ってる」

あっさりと部屋を出て行った紅覇に、蒼麗はしばらく呆然としていた。


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