愛されっ子に悪戯を!
※狩人世界にハロウィンってあるの……? という疑問により番外編ともIfともつかぬ微妙な扱い
※原作一年前
「キルア兄ーっ!」
ばったーん、と。
遠慮も礼儀も何処かにすっ飛ばした勢いで、キルアの部屋のドアが開いた。
こんな開け方をする人間は滅多にいないし、大体キルアを『キルア兄』と呼ぶのは一人しかいない。
ベッドに寝転がってチョコロボ君を食べつつゲームをしていたキルアは、ゲームから一瞬目を上げ、
「……エルカ?」
ぽかん、と一瞬固まった。同時に手の中でゲームオーバーの音が鳴る。
「あーっ! くそっ、後少しだったのに」
舌打ちとともにフリーズ解除したキルアに、既に動揺はない。考えてみれば、毎年同じような目に合っていることを思い出したので。
「えへへ、似合ってるー?」
にこにことご機嫌な訪問者、基エルカは、ゴスロリチックな衣装を纏い頭にはとんがり帽子を被った魔女っ子ルックであった。
「そういや今日はハロウィンか」
「うん! だからね、トリックオアトリート、お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうよ」
ぴょこんとベッドの上に座り込んだエルカの腕には、既にいっぱいのお菓子。
「今年はオレんとこ来る前に随分回ったんだな?」
今まではキルア以外のところにはあまり行っていなかったのに。
微妙にふて腐れた心中を察する訳もなく、エルカは「うん、あのね聞いて聞いて!」と怒涛の勢いで話し始めた。
まずは次兄、ミルキに引き止められ部屋に連れていかれ、挙げ句とある服を突き付けられたところから話は始まった。その服というのが今の服らしい。
その服を着たまま母、キキョウに会い、何か妙なスイッチを押したらしく衣装部屋に連行されそうになったところで、例の如くキキョウの側にいたカルトにさりげなく庇われ逃げてきたこと。
次に長兄、イルミに呼び止められ事情を聞かれたこと。ついで真顔で写メられたらしい。
そして此処に向かうまでにゴトーと鉢合わせ、そっと南瓜プリンとパンプキンパイを二つずつ渡されたこと。ゴトーお手製だと聞いてキルアは驚愕した。
ちなみにゴトーの他、ミルキからスナック菓子一袋、キキョウとカルトからチョコレートを沢山、イルミから飴玉数個貰っていたという。そりゃあ大荷物な訳だ。
ついでに、何故さっきからミルキの部屋の方向から悲鳴と破壊音が聞こえるのかが解った気がする。恐らくイルミ辺りがミルキのフィギュアを壊しているのだろう。
「沢山お菓子貰えたから、キルア兄と一緒に食べようと思って!」
大輪の笑顔を浮かべる妹にふて腐れていたのが阿呆らしくなり、「んじゃ、オレからも菓子」と言って個装のチョコロボ君を二つ、エルカに放った。今日は特別だ。
「ありがとう!」
キルアと同じくチョコロボ君が大好物なエルカは、きらきらと瞳を輝かせる。
それを見て、不意にキルアは思い立った。
ちょっとした意趣返し。ふて腐れた気持ちにささやかな仕返しを。
「エルカ」
「なぁに?」
「トリックオアトリート!」
「っえ?」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ」
「え、ええ!?」
あげてばっかり、っていうのもつまんないだろ?
思った通り、あげる用のお菓子を持っていなかったらしいエルカは、面白いまでに動揺していた。
その様子にクスリと笑って、キルアはエルカに囁いた。
愛されっ子に悪戯を!(さあ、どんな悪戯をしようかな?)
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