「……こんな所に呼び出して、何の用かしら? ユミル」
「白々しい真似するなよ。分かってるだろ」
「消灯時間過ぎて外出してまですること?」
馬鹿馬鹿しい。
なんて、分かってるよ。私にとってはそうでも、ユミル、あんたにとっては何より重要なことなんだろうね。
*
呼び出しを喰らったのは、私が風呂に入る直前だった。皆が風呂から上がってきて、さあ入りに行こう、そう動き出した私の後を、ごく自然にユミルがついて来ていた。
「何か用?」聞いた私に、用件だけを告げて、ユミルは部屋に戻っていった。
別に、来る必要は無かった。それなのに、来てしまった。理由は、単純だ。
「ま……いっか。いい加減猫被るのも疲れちゃってさ。――あんたは気付いてるっぽいし、構わないよね」
それだけの、話。
「それが本性か?」
「やだ、本性なんて人聞き悪い。仕方ないでしょ、嫌われ者じゃ生き難い世界なんだから」
「そうかい。……で?」
「ん?」
「その猫被りが、何で自ら嫌われに行く必要がある?」
苦手だ。そうハッキリと認識したのは、きっとこの瞬間だった。
こいつは、嫌いじゃないけど、でも出来れば関わりたく無いタイプの人間だ。
「気に食わないから」
「……は?」
「誰からも好かれようとする、あの態度が気に食わない。そんで、その態度に容姿が伴ってるのが、何よりも気に食わない」
私がどんなに頑張ったって手に入らないものを、生まれながらに持っているクリスタが気に食わない。
「お前、馬鹿だな」
「……はあ?」
「フィリーネ、お前が飾らない態度で他の奴らと接してるなら解らなくもない理由だが……違うんだろ? 自分でも言ってたもんなぁ? 猫被ってる、って」
…………、そんなこと。
「どうでも、良いでしょう……!?」
私だって容姿が良ければ、生まれた環境が良ければ、こんなことはしなかった。
こんなことがしたい、訳じゃなかった。
「あんたには関係ない。首を突っ込むなよ、ユミル」
「お前がクリスタに余計なちょっかい出す内は、無理な話だな」
「……だから、私はクリスタが嫌いなんだ」
私と同じで自分を偽っているくせに、誰からも好かれるクリスタが。絶対的な味方のいるクリスタが。
嫌いで、憎くて、
――妬ましくて、気が狂いそうだった。
140126~140226
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