溺れた魚 | ナノ


女子部屋に戻った私は、自分の寝床にひっくり返っていた。

今日は割とハードな訓練日程で、お蔭様で身体はクタクタである。二人になるタイミングが無かったのでクリスタへの八つ当たりも叶わず、機嫌はよろしくない。

「あ゙ぁー……しかも面倒な奴に目ぇ付けられたし」

面倒な奴、というのは、ユミルという名前の、クリスタの番犬のことだ。
まあ仕方がないと言えば仕方がない。ユミルの性格は嫌いじゃあないが、クリスタとの関係を考えると評価は一気にマイナスに落ち込むのだ。目を付けられても嫌われても気にすまい。
だからって絡まれたいわけではないが。

「あー、めんどくさ……眠い、疲れた、風呂入りたい」

左腕に巻いた包帯の辺りをバシバシと叩く。私はこれのせいで、他の女子達と時間をずらして風呂に入る羽目になっていた。
まあ、教官達にはこの話は伝わっている……というか、初日に地下街出身なのをカミングアウトした時点でバレているだろうから、風呂に入るために消灯時間に出歩くくらいなら目を瞑ってもらえているので、弊害は微々たるものだが。精々私の精神ダメージと、一部女子――主にミーナとサシャ辺りに疑問に思われてるくらいなもので。後者の場合、食べ物でどうにかなるので余り問題ではないし。

誰もいない部屋に少し気を抜いて、包帯を外していく。蒸れるのだ、つけっぱなしは。
訓練のせいで薄汚くなっている包帯をは、汗で少し湿っていた。――気持ち悪い。

「……、嫌ーなもんだよね」

外した包帯の下から現れた、過去の産物、悪夢の一端を見遣って、私は自嘲の笑みを漏らした。

――こんなのに縛られちゃって、何やってんだろね、私は。

これが無かったら、クリスタなんかに不愉快な感情を抱かなかったのかな、なんて。考える意味のない話だ。



131226~140126


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