進撃 短編 | ナノ


調査兵団には、希望さえすれば入団出来る。

三年の訓練期間を終え成績上位十名の発表も終わった今、なまえはそんなことを考えていた。
なまえは元々特に何も考えず、世論に流され訓練兵になった人間だ。三年間に渡る訓練を耐えられたのは僥倖だが、流石に成績上位者にはなれなかった。

つまり、内地で暮らす権利を持つ憲兵団には入れない。残る選択肢は駐屯兵団、そして壁外へ出なければならない調査兵団だ。

(アルミンは……調査兵団、だったっけ)

そう考えて、ずきりと針が刺さったような想いがした。
調査兵団なんて、死にに行くようなものじゃないか。と。
それでも、と自分の命と淡い恋心を天秤にかけて、なまえは悩んでいた。馬鹿なこと考えずに命を優先しろ、と思う。失ったらもう二度と会えないよ、と思う。
人生が変わると言っても過言じゃない選択だから、まだなまえは迷っていた。

……呑気に悩めた時間は、少なかったけれど。





壁は壊された。五年前の悪夢の再来だ。
五年前と違うのは、なまえは逃げようと必死になる立場ではなく、被害を最小限に食い止めるために犠牲になるべき立場ということだった。

目の前で、同期達が喰われていく。捕まって、噛み千切られて、地面に落とされていく。
ああ、また死んだ。死んでいく。次は自分の番かもしれない。
残酷な現実は、なまえの目に焼き付いて忘れることは出来そうに無かった。





(あの現実を見て尚、アルミンは調査兵団に入るのかな)

多大な犠牲を出して、トロスト区争奪戦は人類の勝利で終わった。

(あんなの、もう勝利なんて言えない……)

人が、死んだ。一緒に訓練した仲間も、先輩方も、たくさん死んだ。
頭では解っていた。巨人と戦えばこうなると、知っていた。そのはずだった。
なまえは結局、解っていなかったのだ。知った気になって、呑気に悩んでいたのだ。淡い恋と自分の命を天秤に掛けて。

アルミンを真似て調査兵団に入ったとして、私は、彼は、生きていけるのだろうか。数年、とは言わない。たった一年後までですら、二人とも生き延びる確率は、限りなく低い。
でも、もしその低い確率を生き延びたら。なまえはアルミンに想いを告げることが出来るかもしれないし、もしかしたらアルミンとそういう関係になれるかもしれない。

(そんなの、夢物語に決まってる)

……私は、まだ、死にたくない。





「なまえはもう、所属する兵団は決めたの?」
「……駐屯兵団にするつもり。アルミンは、調査兵団よね?」
「うん。……そっか。その方が良いね」
「そうかな。……ねぇ、アルミン」
「なんだい?」
「……死なないでね。絶対」
「……ありがとう」

一瞬お互いの顔を過ぎった諦めにも似た寂しさに気付く前に、二人の道は別れた。



131005

僕の知らない世界で様に提出しました。


[ back ]

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -