進撃 短編 | ナノ


※GLD(百合)注意
※現代パロ



昔、誰かから聞いた。女の子の最上の幸せは好きな男性と結婚して家庭を持つことだって。

「ユミルはさー、やっぱり結婚とかしたかったりする?」
「いや、全然。これっぽっちも」
「ふーん」

今日も私の家に押しかけてきたユミルは、私のベッドの上でつまらなそうに私の雑誌を捲る。つまらないなら読まなきゃ良いのに。

「つーか何だよ、急に。なまえは結婚願望あるのか?」
「無くは無い……ていうか、ある、かな」

幸せな花嫁、一度は夢見たことがある。今の男っ気の無さじゃ縁遠い話だけど。
そう思いながらユミルから雑誌を奪い取る。舌打ちをしたユミルは仰向けになると思い切り伸びをした。

「喉が渇いたな」
「何が言いたいの?」
「何か飲み物くれ」
「あのねぇ……何でこうも人ん家でリラックスしてんのさ」

呆れつつも夏場は常備してある水のペットボトルをユミルに放る。一口飲んだユミルは「温い」と顔をしかめた。

「そりゃ夏に常温だから……はい寄った寄った」

ユミルを少し押し退けて、隣に寝転がる。先程彼女から奪い取った雑誌をぺらぺらと流しながら、目についたモデルの男の子を見詰めた。

「何だよなまえ、そいつが好きなのか?」
「別にー、目についただけ」

こんな人なら恋人なんて簡単に出来るだろうな、なんて思って、それでもこの人の彼女になりたいとは思えないのは、あくまでも紙面上の人間だから。
かと言って別に身近に付き合いたいと思える人もいないし、逆に私と付き合いたい人もいないだろうし。
あーあ、

「私、結婚出来んのかね」
「別にしなくても良いだろ」
「他人事だと思って……」
「他人事じゃねぇよ」

久々に聞いた気がするユミルの真面目な声。それに「はあ?」何てやる気の無い声を返すと、部屋に沈黙が下りた。

無言でパラパラと雑誌のページを捲る。一度読んだ内容だし写真だって一度は見たものだから、あまり面白くはないが、手持ち無沙汰な心境が私にページを捲らせる。

ねえ、聞き返したんだから返事してよ。他人事じゃない、ってどういう意味?

なんて素直に言える程私は殊勝な人間じゃない。気味の悪い沈黙にただただ見たい訳でもない雑誌のページを捲る。
と、雑誌が横から奪い取られた。言わずもがな、取ったのはユミルで。

「何よ」
「お前はさ、何で結婚したいんだ?」
「何でって……幸せそうでしょ、好きな人と一緒にいるのって」
「それだけなら結婚する意味ないだろ」
「ああ……言われてみれば」

というより、何故こんな話を掘り返したんだろう、ユミルは。何と無く聞いただけで特に意味はない質問だったんだけど。

「好きな人って異性とは限らないだろ」
「殆どの場合は異性だと思うけど」
「同性の場合もある。そんで、同性とは結婚出来ない」
「うん、まあ……」
「だから、お前が好きな私は別に結婚しなくても良い訳だ」
「うん、まあ……はあ!?」

ぎょっと目を見開いた私に、ユミルはなんてことないかのように繰り返す。

「私はなまえが好きだから、結婚願望がない」
「す、すすす……っ!?」
「好き」
「いい! 繰り返さなくて良いから!!」

じわじわと顔が赤くなっていることを自覚する。
だって、今までそんなこと思いもしなくて、ユミルは普通に友達で……。……あれ、何で。

「何で嬉しいとか思っちゃってんの私……」
「へえ、嬉しいのか?」
「ぎゃあ! 馬鹿ユミル、顔近……っ」

思わずとんでもないことを口走った私の顔を、にやにやと笑うユミルが覗き込んで来て、何と言うか、その、平常心を保てない。

「顔真っ赤」
「るっさい! あんたが変なこと言うから……!」
「こりゃあ私も脈ありだな」
「……っ」

こんなことを言ってくるユミルを鬱陶しく思わない辺り、私は相当女としての幸せを捨てているな、と混乱する思考の片隅で思った。



130806

夢を、見ていた様に提出しました。


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