Memo | ナノ


>>819×965非夢

帝光中学のバレーボール部は、時折高校のバレー部を招いて練習試合を観戦する。見て学ぶ、ということが顧問やコーチの方針だからだ。勿論、その高校は全国レベルでないと話にならないが。

今日帝光中で試合をするのは、千葉の高校と、そして宮城の高校の練習試合である。千葉の高校は全国に何度も出場経験のある緑南高校。対する宮城の高校は、全国出場経験こそ少ないが、他にない速攻をする烏野高校だ。

その烏野高校が帝光中に足を踏み入れた。

「…………迷った」

と同時に烏野高校排球部所属の日向翔陽はトイレを探して迷子になった。

「広すぎだべこの学校……。どうしよう」

頭の中で影山が『日向ボゲェ!』と言っている。ついでに月島が嫌味っぽく笑っている。
今日は日曜日である。周りには生徒など誰もいないから、日向は困ってしまった。



黒子テツヤは、久しぶりに学校に来ていた。バスケ部のキセキ達と顔を合わせたくなかったので、ここ最近は学校をサボり気味だったのだ。
そんな黒子が何故日曜の学校にいるのかと言えば、図書室の本を借りっ放しにしていたからだ。帝光中は日曜日も図書室を開放している。バスケ部の体育館に近寄らなければキセキ達に遭うこともないだろう。そもそも黒子に気付くかは疑問だが。

図書室へ向かおうとした黒子は、うろちょろするオレンジ髪の小柄な少年を見付けた。他校の生徒だろうか、迷っている様子だ。
黒子は基本的に困っている人を見過ごしたくない質だ。後ろから近づいて声をかける。

「あの、」
「うひぇぇぇ!!」

相変わらずの影の薄さに、少年が奇声を上げて飛び上がった。

「ゆゆゆ、ゆうれい……!?」
「人間ですよ。この学校の生徒です。驚かせてしまってすみません」
「うわわっ、あの、こっちこそごめんなさい!」

バッと勢いよく頭を下げた少年に黒子はうっすらと微笑む。元気な少年だ。

「他校の方ですよね。迷ったんですか?」
「うっ……実は。あの、トイレってどこにあるのか教えてくれる?」
「案内しますよ。広いですよね、この学校」
「ありがとう! あー良かったあ! おれこのまま戻れないかと思った!」

ホッとしたように息を吐いた少年は、歩き出した黒子の隣に並んだ。

「おれ、日向翔陽! 烏野高校のバレー部で、練習試合に来たんだ」
「中三の黒子テツヤで……高校?」
「おう! 宮城にある高校で……ってもしかしておれ、中学生に思われてた!?」

中学生だと思っていた。身長は黒子よりも低いほどだし、そもそもここは中学校だ。

「すみません。高校生の方がいると思わなくて」
「まあいいけどさあ。慣れてるし」

少しばかりつまらなそうに唇を尖らせた日向は、言ってはなんだが高校生には見えなかった。

「随分遠いところから来たんですね」
「昨日から二日間の東京遠征だったんだ! 夏休みとかは一週間くらい合宿したりするし」

今度は楽しそうな表情。くるくると変わる日向の表情は見ていて飽きない。

トイレで用を済ませ、黒子は体育館まで送ると申し出た。バレー部とバスケ部の使う体育館は離れているため躊躇いは無かった。

「黒子さ、この後ヒマ?」
「え? はい、一応」
「じゃあ練習試合見に来ない?」
「……え」

にぱっと笑う日向は、「おれの達のチームすんげー強いから!」と胸を張った。
その表情と言葉が、今の黒子には妬ましいくらい眩しい。

「お邪魔じゃないですか?」
「ギャラリーに人たくさんいたから大丈夫! ……たぶん」

言葉尻で自信を無くしつつ、「気が向いたらで良いから! 送ってくれてありがとな!」と日向は体育館に駆け込んで行った。


黒子は一先ず本を返却しに行った。そして気付くと、足はバレー部の体育館へ向かう。
日向の心底バレーが好きだというあの表情が、瞼の裏に張り付いて剥がれない。

試合は既に始まっていた。そっとギャラリーに上がる。誰にも気付かれずに上りきって下を見下ろすと、オレンジ頭が目に飛び込んできた。あの身長でレギュラーか、と失礼ながら少しだけ驚いた――直後。

日向が飛んだ。

飛んだように見えた。驚くべきジャンプ力だ。どうやらそのジャンプは囮だったようで、坊主頭の選手が力強いスパイクを決めた。
得点板に目をやると、24対23で烏野が一セット目をリードしているようだ。確かバレーは一セットが25点先取だったから、あと1点で烏野がセットを取る。

「おれに持って来い!」

はっとコートに目を戻すと、日向が再びジャンプしたところで。
そして。

「……えっ」

素人目にもわかる。無茶苦茶だ。無茶苦茶に速い速攻が、相手のコートにボールを落とした。

「よっしゃああ!!」

日向たちがガッツポーズをする。誰もが、ベンチ組の選手でさえも、本気で試合をしていた。

――ああ、眩しい。

あんな風に、コートに立っていた。一生懸命にがむしゃらに頑張っていた。
もっと、あんな風にバスケをやっていたかった。



いったん終わり。気が向いたらまた書きます。

2015/01/13 23:52

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