Memo | ナノ


>>↓×2の設定で縢と友人以上恋人未満

*act.7 二人
※微妙に注意

「寝ない?」という言葉は、あからさまな誘い文句だった。二人で縢の部屋で飲んでいて、珍しくペースが遅い気はしていたのだが、まさかそんな問い掛けをされるとは。

「……いいけど」
「え? いや、いいの?」
「誘ったのそっちじゃん」

一方の刹香は割合ハイペースで飲んでいたから、酒の勢いとも言えるのかもしれない。それでもそこに合意が存在したのは確かだった。


先にシャワーを浴びた刹香は、縢のベッドに腰掛けてぼんやりしていた。微かに湿り気を帯びた髪からは持ち込んだ自分のシャンプーの匂いがして、視覚と嗅覚からの情報が妙にちぐはぐだった。

「おまたせ」

タオルドライで髪の水分を取り除きつつ、縢がシャワー室から戻って来る。ああ、うん、とぼんやりとしたまま返事をした。引き締まった上半身に何も纏っていない縢を見て、微かに緊張していた。

緊張なんて、そんな、初めてでもあるまいし――思いかけて、違う、と思い出す。
違う、三永刹香は男と寝たことがないじゃないか。

2歳か、3歳か。もうすっかり忘れてしまったけれど、そんな年頃から施設にいたのだ。異性との触れ合いは極端に少なく、そんな機会は全く無かった。
そして、それは、縢も同じだ。同じ、はずだ。

「縢」
「どーしたの」

がさがさとタオルドライを続けていた縢を、座ったまま見上げる。呼ぶ声に、縢は刹香の目の前に立った。

「怖くなった?」
「いや……。あのさ、縢って童貞だよね?」
「あー……まあそんな機会なんてなかったし? 刹香ちゃんもそうだろ」
「うん、処女。――そうだよね」
「そうだよ。俺ら、なーんも無かったんだから」

縢と刹香は、境遇が似ている。幼い頃にシビュラに、世界に否定されて以来、ほとんどのものを失った。

縢がタオルを放って、刹香の肩を押す。逆らわずに背をベッドに付けた刹香に、縢は唇を押し付けた。
下手くそなキスだった。なのに、気持ち良かった。

刹香は目を閉じていたけれど、もしかしたら、縢は、泣きそうな顔をしているのかもしれないな、とそう思いながら、首に手を回した。



*act.8 ハンバーグ

何故か、何の料理が一番好きか、という話になった。経緯はあまり覚えていないけれど、多分、思い出話から発展したのだと思う。思い出話、とはいっても半年も経っていないような過去の話だ。

「グラタンと、パスタ」
「何のパスタ?」
「……ナポリタン、かな。でもカルボナーラも好き」
「刹香ちゃん、意外と子供舌だよな」
「うるさい。そういう縢は?」
「あー……やっぱ、ハンバーグかねぇ」

縢が初めて食べた、旨いメシ。楽しむための食事は、ハンバーグだったらしい。
私も好き、と同調した刹香は、そのまま続けた。

「私も好き。白米と食べるのも良いけど、パンと食べるのが、一番好き」
「パン?」
「そう」

今の三永刹香になる前、ハンバーグはパンと食べてばかりだった。

「鉄板に残った肉汁とかソースをさ、パンで掬うんだよ。最高に美味い」
「あー旨そう……やっべぇ、腹減ってきた」
「作ってよ。ハンバーグと、ついでにパンも」
「今日は材料ねぇから無理。でも絶対パンも作って食う」

二人して空腹を感じて苦笑い、まだ時刻は四時を過ぎたばかりだ。1時間前には縢特製デザートを食べたところだというのに。

「ていうかさ、刹香ちゃん」
「何?」
「どこでそんな食い方したの? むっさんの店でも、俺も、白米とでしかハンバーグ出したことねぇんだけど」

昔々のことを思い出して、刹香は笑う。人差し指を唇の前に立て、

「……秘密」

そう言った刹香は、らしくもなく無邪気な笑みを浮かべていた。



*act.9 彼のいない世界
※中途半端知識なので原作と食い違ってたらすみません

「――常守サン」

微かな呟きが、刹香の喉から漏れる。刹香は、笑っていた。哀しそうに辛そうに切なげに、笑っていた。

「私、縢がいなくなったら泣けると思ってた」

でも、違ったんだ。泣けないんだよ、常守サン。

「刹香ちゃんは……縢君のこと、好きだったの?」
「……恋じゃ、無かったと思うよ」
「好きな人、いたんだっけ」
「うん。でもさ、恋じゃ無かったけどさ、……私、縢のことが好きだった。たぶん、世界で一番好きだったよ」

まるで矛盾した言葉を吐き出して、刹香は天井を仰ぐ。

「縢のことは好きだったし、征陸サンにだってよくしてもらってた。大切な人達だよ」
「……そっか」
「なのにさ、泣けないんだ」

三永刹香が生まれてこの方、一度も涙を零したことはなかった。前世も、その前も、頻度は低くても涙は出たというのに、今の刹香は泣けなかった。

大切な人を失っても、泣けなかった。

「常守サン……泣けないって、辛いね」



ここまで!

2014/11/21 19:45

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