Memo | ナノ


>>↓の設定で縢君以外

*act.5 ドミネーター

執行官としての初仕事だった。右手に持ったドミネーターは、訓練で撃たされた時から軽すぎると思っていた。
命を奪う衝撃が軽い。眠らせて確保するだけのパラライザーならともかく、殺すためのエリミネーターには軽すぎる。

ナイフで腹を刺し、喉を切り裂き、心臓を貫く。あの感覚。生々しい命の感触。
それが、殺すということではなかったのか。

“三永刹香”は人を殺したことがない。殺しにプライドを持っていた“セツカ・グレイシア”は、遠い過去の記憶だ。それでもその記憶が、刹香の色相を濁らせ、犯罪係数を上昇させる。

相対した獲物は、見苦しい程取り乱していた。

「こちらハウンド5。ターゲットを発見」

報告を入れた途端、ドミネーターの形が変形した。

《犯罪係数オーバー300。対象の脅威判定が更新されました。執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除してください》

「あーらら」

犯罪係数312.4。エリミネーターに変形したドミネーターで撃てば、男は死ぬ。

「ハウンド5、執行します」

トリガーを、引いた。
膨れ上がり、弾けて死んだ肉塊には何の感慨も抱けなかった。


「どうだい、初めて人を殺した気分は」

護送車の中で、征陸に尋ねられた。ほんの少し、労りを込めた声音で。

「……軽すぎる」

対する刹香の口調は冷え切っていた。

「殺しにドミネーターは軽すぎると、思ったことないですか、征陸サン」
「さあなぁ。もうドミネーターを扱うのも慣れちまったから、そんな昔のことは覚えてないねぇ」
「……軽すぎて、何の感慨も湧かなかったんですけど」
「肝が据わってるな、三永。だからPSYCHO-PASSが濁っちまったのかね」
「……そうかもしれませんね」

間違ってはいないでしょうね、と答えた刹香は、どこか切ない感情に静かに瞼を下ろした。



刹香が潜在犯たる由縁について。征陸さん難しい。



*act.6 昔話

「三永さんって、恋したことありますか?」

常守にそう尋ねられたのは、出来上がった縢が酔い潰れた後のことだった。酒好きだが酒に弱い縢をソファーに転がした刹香は、私? と目を瞬かせた。

「私? なんで?」
「いや、その、さっき縢君にも聞いたからちょっと気になりまして……」
「ふぅん」

常守の隣の席に腰掛け、手酌で酒を煽る。

「常守サン。敬語いらないよ。私縢より後に入ったし」
「あ、うん、わかった。えっと……」
「呼びにくいなら名前でどうぞ」
「あ、ありがとう。刹香ちゃん」

仕事時間はきっちり敬語を使い、呼び掛けも常守監視官、と線引きをしている刹香のオフモードに、常守は戸惑いつつも微笑んで頷く。

「刹香ちゃん、恋したことある?」
「……引っ張るね」
「あ、言いたくないなら良いんだけど……」
「いや、別に」

恋、恋かあ、と記憶を辿った。20年以上昔、今の“三永刹香”が生まれる前の記憶を思い起こす。脳裏に銀が光る。

「……そうだね、まあ、あるよ」
「え、あるの?」

意外、と目を見開く常守に、そうだろうな、と笑った。
物心付いた頃には、色相は濁り切っていた。犯罪係数も取り返しの付かない数値をたたき出していたのだから、執行官の適性が出なければ施設から出ることも叶わなかっただろう。

「もう、誰かを好きになるなんて出来ないと思うけどね」
「そんなに、好きだったの?」
「まあ、そりゃあ、ね」
「えっと、……その人は」
「さあ……二度と会えない、ってのはわかってるけどね。どうしたんだろうね」

呟くように言って、グラスに酒を注いだ。

「常守サンは?」
「へ?」
「恋。したことある?」
「え、えへへ……ある、かなあ」

照れ笑いをする常守のグラスにも酒を注ぎ、自分のグラスに口を付ける。征陸オススメの酒は、縢には強いが刹香と常守にはいい具合だった。こういう、秘密染みた話をするには。

「――常守サン」
「なに?」
「今から言うのは、酔っ払いの戯れ事だから」

忘れてね、なんて。アルコールの勢いで口を滑らせた。

「子供の頃から知り合いでさ、周囲に近い歳の奴なんて親戚とそいつしかいなかったから、自然と惹かれてたと思うんだよね」
「……刹香ちゃん、それって、」
「あいつ、どうしてるかな。元気でやってんのかな。それとも、死んだのかな。……すごい遠くにいるからさ、わかんないんだよね」
「それって、どういう……?」

混乱したらしい常守に、グラスに残った酒を飲み干してから、笑いかけた。

「ただの酔っ払いの戯れ事、だよ」



某ゾルディック家の三男君について。朱ちゃんとガールズトーク。

2014/11/20 20:09

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