>>千年越しの初恋は儚く散る[いぬぼく]
数十年前――私の体感時間からすれば、もう千年は経ったような昔の話。私は思紋さまの屋敷に連れて来られた命に出逢った。
*
命。卍里。クロエちゃん。それから、思紋さま。周囲を取り囲むのは『まともな』先祖返り達。
私は御狐神(の分身)に抑え付けられたまま、命が力尽きていくのを見ていた。
命が千年桜に呑み込まれて、そして自分の時間を失った後。私も思紋さまに秘密で千年桜に触れた。そうして私が行き着いたのは、案の定、命と同じ現在だった。
あれ程思紋さまに泣かれたのは初めてだ。体調の戻った命にも、散々馬鹿にされた。
ねえ、命。私は貴方と同じ刻を過ごしたかったの。それだけだったの。
貴方の未練は思紋さまで、そして懸想するのも思紋さまだけだったけれど。でも、私は――
命が、死んだ。千年桜は命に不老を強いたけれど、不死には出来なかったのだ。
命が息絶えたことで、御狐神の私を抑え付ける力が弱まる。
「――っ、離して!」
咄嗟に身をよじって、振り払った。
「な……桜花!!」
私が手にした小刀に、卍里が息を飲んで手を伸ばしてきた。
ifの世界の、命の友達。私の、友達。もう少し、三人で過ごしたかった気はするけれど。
もう、命はいないから。
命が死ねたのなら、私だって不死ではないのだ。
迷いなく首を掻き切って、私は絶命した。
*
――思紋さま、思紋さま。
――私は貴女が大好きだったけれど、
――貴女の側に居れたことは嬉しかったけれど、
――でもね、私は、
幾度と無く貴女を怨んだよ。
*
何も無い世界だった。真っ白な世界に、懐かしい黒髪が見える。
「……命」
「おまえも死んだのか、桜花」
「長く生きていたけど、初めて自殺しちゃった」
「馬鹿だろ、おまえ。俺は百鬼夜行やったから殺されたけど、おまえは死ぬ必要ねぇのに」
「これ以上生きろっていう方が、酷だよ」
「あっそ」
素っ気なく頷いた命に、泣きたくなった。
ねえ、気付かないの。気付いてくれないの。
こんな思考は、ただの甘えだと解っているけど。
「命がいなかったら、私はひとりぼっちだよ」
「……思紋はまだ生きてるだろ」
「思紋さまだってもう、終わるよ。命だって解ってるくせに」
「そうだな」
命は酷いことを言う。命は思紋さまのことを話すとき、少しだけ柔らかい口調になって、それが私は辛いのに。
「……ごめん」
不意に謝ってきた命に、私は目を瞬かせた。
「悪い。本当は、気付いてたんだ」
――ああ、なんだ。知ってたんだ。気付いてくれていたんだ。
「――大好きよ、命」
「……うん、知ってた」
「大好きだから、千年桜を利用したの。そうしたら私は、思紋さまよりずっと長くを貴方といられるから」
「おまえ、いつも千年桜に触るの俺より後だったしな」
「私の未練は命だもの」
命の未練は思紋さまで、そして懸想するのも思紋さまだけだったけれど。でも、私は――
――私は、貴方を愛していたわ。
「俺は……」
迷うように言葉を切って、そうして命は、私の身体に両腕を回した。
「――っ」
「俺は友達として、おまえが好きだったよ」
残酷で優しい命の言葉。命の肩に、閉じた目を押し付けた。
「私は、友達としても命が大好きだったよ」
閉じた瞼の隙間から溢れた雫が、命の服の肩部分だけを濡らした。
140730
まだ書きたいけど取り敢えずこれだけで。気が向いたら書くかもです。
子供思紋さまと顔近付けて笑ってる命が愛し過ぎてだな……。
2014/07/30 13:15prev /
back /
next