>>knv男主でキイチ夢とか
サンプル文。
「キイチ、」
柔らかく呼ぶ声はいつだって耳に心地好くて、だからこんな時に呼ばれると少し、少しだけ苛立つ。
余りにも心地好いから、つい眠気に誘われて負けてしまいそうだ。
「何ですか? 見ての通りキイチは忙しいんです。用が無いなら邪魔しないで下さいです」
「うん、御免ね。でも根詰め過ぎ。少しは休みなさい」
パソコンにしがみついて情報収集を続けるキイチに、壬は苦笑して、パソコンから少し離れたところにティーカップを置く。湯気の立つカップに釣られて手を伸ばし、口を付けると良い薫りとほど好い甘みが疲れた身体に広がった。
「……ご心配ありがとうございますぅ。あと、お茶、美味しいです」
「ついでに俺が心配だから一旦睡眠取って?」
「そうはいきません。急ぎの仕事ですから」
「キイチが寝てる間に俺がやっておこうか?」
「馬鹿言わないで下さい、これはキイチの仕事です!」
心配そうな声と、温かいミルクティー。
寝ちゃ駄目だ、そう思うのにここ数日まともに寝ていない身体はふらついて、あまつさえ眩暈までしてきて。
眠気を振り切るように、カップの中のミルクティーを一気に飲み干して、再びパソコンに向かう。
「身体を壊したら元も子も無いよ、キイチ」
「五月蝿いです。今まで壊したことなんてありません」
「……まったく。頑固だなぁ、キイチは」
背を向けていたので定かでは無いが、苦笑いしたらしい様子を残して壬はティーカップを回収して部屋を出ていった。
これで集中出来る、という気持ちと、何と無く心細いような気持ちが混ざり合って、キイチは複雑な思いだった。
しばらく仕事に没頭していると、どれくらい経っただろうか。控え目なノックの音に、キイチはふと顔を上げた。くるりとドアを振り向いて「誰ですか?」と尋ねる。入って来たのは案の定と言うか何と言うか、壬だった。
「朔さんに頼んで、仕事代わって貰ったよ」
「……はい?」
「後は俺がやるから、キイチは大人しく休んでて?」
「な、何するんです!?」
開口一番、さらっと告げたかと思うと、唖然としたキイチの身体を軽々と抱えて、ベッドに横たえた。
「お休み、キイチ。ゆっくり休んで」
余りの一連の流れの速さに未だ瞳を瞬かせていたキイチの額に、壬はそっと唇を落とす。赤面したキイチに愛しげに目を細めて、毛布を掛けた。
「……仕方ないから休んでやるです」
「それは良かった」
他の人に仕事を取られたらそれはきっと嫌だし、プライドが許さないけれど。
壬相手なら素直に任せられる。溶けるほど甘やかされるのは存外心地好くて。
キイチは眠気の波に逆らわずに目を閉じた。久々にぐっすり眠れそうだった。
131127
キイチちゃんが可愛くて仕方がない今日この頃。最後の『久々にぐっすり眠れそうだった』は単に仕事続きでろくに寝てなかった、って意味です。
2013/11/27 23:10prev /
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