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四年生に上がった。それはとても喜ぶべきことだ。
けれど、真新しい紫の衣に袖を通すことなく学園を去った生徒もいた。同室だった友人もそのうちの一人で、ついこの間まではユリコのせいで部屋が狭いと文句を垂れていたのに、今ではもう家の事情だかで学園にはいない。前から決まっていたはずなのに、ユリコもカノコもこの部屋にいるのに、この部屋は今、こんなにも広い。
部屋の広さに耐えられなくて、障子を開いて外に出た。両隣の灯は消えている。もう夜も遅い。自分の部屋の右隣はもうは組だったか。左の部屋も右の部屋も、もう二人とも寝ているのだろう。自分ひとりという状態がひどくむなしい。
と、そこで、4年長屋には不似合いな、隠す気もない足音が聞こえた。
「あれぇ?まだ起きてる人がいる〜」
お隣さんかなぁ、はじめまして。
もう既に夜着をまとっている自分と違って、まだ紫の装束を着ている、だけど見たことのない人。月の光をはじきながらゆるゆると笑みを浮かべる人を見て首を傾げるも、お隣さん、と言う言葉にふと噂話を思い出した。
「もしかして…、は組にきた編入生?」
「そうでーす。きみ、挨拶しようと思ってもいっつもいないんだもん。空き部屋なのかと思っちゃった。」
そういいながらごく自然に隣に座って、君も一人部屋?と首をかしげる。しゅるりと頭巾をほどくそのさまを見て、馴れ馴れしいな、と顔をしかめる。そうだけど、と答えかけて、彼は実は15歳なのだと言う話を思い出した。
「そうですよ。今年から一人部屋です。」
「へぇ、そうなんだ。あ、ぼく斎藤タカ丸。きみは?」
「………田村三木ヱ門です。」
何なんだ、この人は。人に聞いておいてへぇ、だけなんて。普通はもう少しなんかあるんじゃないのか。そんなことはないのだろうけど、一方的に情報収集されている気分になる。はっきり言って不愉快だった。
「三木ヱ門くんね。よし、覚えた。」
「そうですか。」
「大丈夫だよ、そんな綺麗な髪の子、なかなか忘れられないから。」
「はぁ…?」
そっけない返事はどうせすぐに忘れるだろうとか考えていたわけではなく、単純に興味がなかっただけなのだけど。
失礼なことを考えているのには気づいたものの、どうにも的外れにへにゃりと笑うこの、鈍いのだか鋭いのだかいまいちわからない人を前にして。
お得意の、「アイドルですから」と言う言葉も、なぜか頭の中から消えていた。
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