24 惑わされるの








「由依ちゃんまた明日ー」
「ばいばーい!」


教室を出ていくクラスメイトに手を振ってから私も鞄を抱える。がらんとして誰もいない教室はなんだかいつもと違う雰囲気で、なんだか寂しくなってしまう。今日の放課後は紗雪は軽音に行っていて、掛け持ちの部活が紗雪のように文化祭で発表がある子は放課後皆欠席だ。残りの人で今日は作業をし、早めの解散となった。身の回りの片付けが遅くて帰りが最後になってしまった、電気を消して私も教室を出る。まだ他のクラスや部活の生徒がけっこう残っているようでまだ校内は騒がしい。音もない中一人で帰るのは少し怖かったので私は安心して靴箱へ向かう。
この間財前くんが教室に来て以来、財前くんには会えていなかった。まぁ一週間程度ではあるのだけれど、会いたいなーという気持ちは大きい。ただ、何の用もなく財前くんに会いに行ける訳はなかった。紗雪にくっついて軽音部に行けば会えるし一番手っ取り早い方法なのだけれど、何しに来たのか問われれば答えられる自信は少しもないし、邪魔になるのも分かっていた。多分千鶴ちゃんだったら、忍足くんに会いに来た、なんて正直に言ってそこに居れるのだと思う。私は勿論そんな勇気なんてある訳ないので、無理だ。千鶴ちゃんは行動力があって良いなぁと思う。紗雪は財前くんと気が合って仲が良くて、良いなぁと思う。私の持っていないもの、そして私がほしいものを持っている二人を考えて、自分と比べて、思わず項垂れた。靴箱で靴を履き替えて昇降口を出る。今日は帰りに一人で寄り道でもしようかなと一人ぼーっとしながら歩いていると、「高橋さん、」と私を呼ぶ声がする。呼ばれた途端胸がきゅっとしまる感じがする。間違えるわけない、


「財前くん」


振り向けばやはり彼がいる。その黒髪も、特徴あるピアスも。何度遠くから見つめていたかわからない。


「何か息きれてない?」
「ちょっと、…咳き込んだんすわ」
「えっ、だ、大丈夫?風邪?」
「や、むせただけ」


そう言うと財前くんは止めきれていなかった学ランのボタンをしめながら私の隣に並んだ。そのまま歩き進めていたので、なんとなく私もそれにならって隣に並んで進む。一緒に帰ってくれるのだろうか、こっそりと様子を見てみても財前くんはいつも通りの表情でよくわからない。


「今日軽音だったでしょ?早かったんだね、終わるの」
「紗雪先輩と謙也さんは残るみたいすけど、俺はすることないんで」


先に上がりましたわ、と言いながら財前くんは今日も持っていたギターを抱え直している。テニス部の部長になった彼は大変だなぁと本当に思う。以前紗雪が財前くんがプレッシャーを感じていて大変そうだが、彼には頑張ってほしいなんて言っていたのを思い出す。顔や態度にはそんなことをこれっぽっちも出さないのが財前くんらしくて、でもそれって本当に凄くて苦しいことなんだろうなと思う。何か出来ることがあればしてあげたいのだけれど、私なんかに出来ることはないこと、そしてその資格さえないことも分かっていたので、なにも言ってあげることが出来なかった。
そんなことを考えているうちに財前くんとの帰りの分かれ道についてしまった。彼と一緒にいると時間が過ぎるのが早かったり遅かったり、よく変わる。財前くんとは毎日会える訳じゃないので、また明日とは言えないのが少し寂しかった。またねと声をかけようとすると、私の帰り道の方向にすでに進んでいたらしい財前くんが立ち止まった私をみてどうしたんすか、なんて言ってくる。そんな彼をみて思わずぽかんとしてしまった。


「途中まで送ってきますわ」
「え、…えっ、でも、」
「はよ行きますよ」


ケータイを片手に振り向きながらそう言った財前くんに、なんだか泣きそうになってしまった。「…ありがとう」お礼はちゃんと彼に聞こえたのだろうか、そろそろと財前くんの隣に並んだ。
ちょっと優しくされると嬉しくなって、期待してしまう。私の心はとても単純だった。彼の気持ちなんてもちろん分からないまま、私は今日も一喜一憂している。







(張り裂けそうよ、)






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