23 足踏みをして




「紗雪、由依おつかれー!」
「おー、おつかれ!」
「また明日ね!」



下駄箱で声をかけてきてくれる友人に手を振り返し、二人は校門のほうへ歩いていく。来週の土曜日に文化祭を控えまさしく大詰めといったところで、今日もクラスに残り細かい小物を作ったりして一週間後を楽しみに、とりあえず今日のところは皆で7時頃には解散し散り散りに帰路へついた。外はうっすらと黒ずんでいて視覚的に夜を感じさせられる。ここ最近は文化祭に一直線で、二人はそれに没頭した。学生の醍醐味であることに一生懸命になっているというありきたりな気持ちももちろんのことながら、互いになにかを忘れたいような素振りで各自の作業に打ち込んでいた。二人してそれに気付くことはなく、自分の気持ちにも気づかないふりをして一日を過ごした。だらだらとゆっくり歩いていると、後ろから聞きなれた声が聞こえる。


「あっ、紗雪!由依ちゃん!」
「千鶴」


振り向けば離れたところから二人を発見したらしい千鶴が走ってくるのが見える。紗雪の隣に並んだところからまた歩くのを再開し、今度は三人並んで進み始めた。


「文化祭もうすぐだね!1組どーなの?」
「食券は1組が頂く」
「紗雪がやる気だ!?」
「1組は一位を狙ってるんだー!2組はどう?」
「バッチシだよー白石くんで客寄せもカンペキ」
「謙也は?」
「謙也くんで客寄せって思ってたけど妬けちゃうぜ」
「いっちょまえに何を……」


呆れたような声で言えば千鶴は本当だもんとむくれたような顔を作る。お互い冗談だと分かっているので、直後三人でにやにやと笑ってしまう。端からみたら中々怪しい表情だ。


「ねーねー夜ごはん食べて帰ろうよー!最近ゆっくり遊んでないから話足りない!」
「…お腹へったしそうしよっかな。由依は?」
「私も行く!」








とそんな流れで三人は最寄りのファミリーレストランに入る。ちらほらと同じ制服が見えるので考えること皆同じらしい。思い思いのものを注文し、ドリンクバーから飲み物をもって席に戻りまた三人でだらりとした会話を楽しんでいた。最近は文化祭一直線で休み時間や放課後もあまり会わなかったので、二人はすこし久しぶりな千鶴との時間を過ごす。数ヵ月前偶然再会した紗雪と千鶴は以前からの知り合いではあったものの、何年もたっていれば何か変わり仲良くならない可能性も低くはないのだが考えに反して相変わらず仲の良いままでいられたことが驚きであった。そもそも関西の学校に関東の人間が三人もいることがすでに偶然が重なりあったキセキなのだろう。文化祭の話はもちろんのこと、最近あった嫌なこと楽しかったことを代わる代わるに続けていく。恐らく本人たちも驚くほどに話はつきない。
途中に千鶴のケータイが鳴り、画面をみた千鶴の表情がパッと明るくなる。一瞬不思議そうな顔をした由依だが、やれやれといった表情の紗雪をみてすぐに納得したらしくくすりと笑う。嬉々とした表情の千鶴をみる限り、二人の予想は合っているのだろう。


「もしもし!謙也くん?」


千鶴の言葉に二人は顔を見合わせて笑う。にやにやする二人の嫌味ったらしい反応にも屈することなく逆に爽やかすぎるほどの笑顔を返してきた千鶴に紗雪は呆れたように、それでも少し嬉しそうな表情を作った。少しのあいだ話してから長引きそうだと感じたのか、千鶴は二人に目配せしてから席をたって一度店の外に出ていった。楽しそうに歩いていった紗雪の後ろ姿を見送りながらストローでジュースをすすり、頬杖をついて窓の外にいる彼女をみながら紗雪はにやりと口端をつりあげる。


「随分仲良くなったよね」
「あ、私も思った!だって忍足くんから電話かかってくるとかなかったもんね」
「言うね〜由依」
「えっ、あ、そういう意味じゃないよっ!」


焦って両手で否定を示す由依を見て笑う紗雪にからかわれたことに気づき、少し不満そうにする由依にごめんごめんと軽く謝ってからまたちらりと紗雪は外を見る。楽しそうに笑う千鶴はかなり幸せそうだ。


「まぁ幸せそうでなによりだ。由依も頑張りなよ」
「わ、私はいいよっ!…紗雪からかってるでしょー!」
「あはは」


もう、と頬を膨らませる由依をまえに紗雪はおかしそうに笑っていて、またストローで飲み物と氷をぐるぐるとかきまぜる。からん、と氷が音をたてたあたりで由依は話の最中どこかずっと気になっていたところに気付いた。彼女はどこかいつも他人のことであふれていた。現に謙也と順調に仲良くなり楽しそうに電話する千鶴をみて嬉しそうにしたり、財前相手に奮闘する由依に協力して応援したり。いつだって、自分以外の誰かに精一杯だ。急に黙りこんだ由依を見て不思議そうに紗雪が由依を呼ぶ。顔をあげて真っ直ぐと前をみてもいつもの紗雪がそこに居て、何かを読み取ることは出来なかった。




「…紗雪は、好きなひと、居ないの?」




真正面から向かい合っていれば流石に分かった、ほんの少し紗雪は驚いている。それでもそれは一瞬で紗雪は由依から目をそらして、頬杖をついたまままたストローをいじる。



「ないしょ」



目をふせてそう言った紗雪の表情はどこか寂しそうで、でも嬉しそうで、由依はその言葉になにも返せないままだった。







(すすめないの、)









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