22 消えない汚れ





文化祭準備も終盤にきていた。残り僅かで本番を迎えるそのために各クラス張り切っているのが見てとれる。私のクラスも勿論例外ではなく、和風の小物を集めたり暖簾を作っていたりとそれなりに良い方向で進んでいる。料理は係りの人がレシピを集め、実際に作ってよさそうなものを販売することにしていた。餡蜜、お団子、ぜんざいの三種類だ。ぜんざいを取り入れたのは勿論というか紗雪で(発案者の権限を公使するとか何とか言って皆を丸め込んでいた)、なんともむず痒い気分にされた。
そんな訳で放課後はよく文化祭のために皆で残っていたりする。中学生最後だし、クラスの皆とは楽しく過ごせるしで楽しみながら居残りをしている。千鶴ちゃんがよく遊びにきていたりもして(大体誰かが迎えに来て連れて帰っていってる。その後ろ姿が小動物みたいですこしかわいい)、逆に紗雪と一緒にちょくちょく絡みにいったりと毎日わいわい過ごしている。今調理場と座席とを分けるしきりを紗雪が取りに行っているところだった。大きいしきっと重いから一緒にいくだとか男子に行かせたほうがとか言ったのだけれど、皆忙しそうだからと断られてしまったのだ。確かに各自の受け持ちのものを今皆やっているし、文化部の部活を優先している人もいるしで少し人手不足なのは否めないけれど。そのまま押しきられてしまった。そんな紗雪のためにも自分の仕事にとりかかろうとした瞬間、私の動きがぴたりと止まる。


「ん、高橋さん…ああ、そういえば1組やったな」


財前くん、と呟けばどうもと返された。廊下側の窓から顔を覗かせた彼の元へ駆け寄る。見れば彼は手ぶらでここへ来たようで、ふぅんと言いながらクラスの中を軽く見渡す。


「和風すね」
「うん、甘味喫茶やるんだ」
「ええですやん、来れたら来ますわ」


に、と笑う財前くんに少しはにかんでお待ちしてます、と答えた。もちろん内心ばくばくだ、彼の笑顔はなんだか貴重だと思う。いつもポーカーフェイスというか、飄々としている財前くんが笑顔を見せる人は恐らく少ない。その中に自分が入っていられていると思うと自意識過剰なのだとしても嬉しさは隠せない。多分どこか隠しきれない感情を滲み出してしまっているだろう私の前で財前くんはもう一度教室の中をぐるりと見渡した。


「ところで、紗雪さんおります?」


あ、と思ったときにはつい今暖まったばかりの心が冷えていくのが分かった。


「え、…と、紗雪なら、今クラスの道具取りに行ってるよ」
「あーさいですか……あの人おらんと進まんしおもんないんですわ、軽音」
「そう…なんだ、」


今私はうまく笑えているのだろうか、よく分からない。財前くんは、紗雪と仲が良い。勿論部活のこともあるのだとは思うのだけれど、それを差し引いてもとても仲良しだと思う。紗雪と一緒にいる財前くんはどこかいつも楽しそうだ。あんなに私に協力してくれている紗雪にこんな想いを抱く自分がとても嫌いだ。でも思ってしまう、財前くんは紗雪が好きなのかな、とか。もしかしたら、紗雪も財前くんのことが好きなのかなぁ、とか。


「お、光?」
「紗雪さん、と、ぶ…白石先輩」
「今部長って言いそうやったろ」
「拾わんとってくださいようっとーしい」


そんなことを考えてると紗雪の声がして、それを合図に廊下を見てみれば紗雪と白石くんが一緒にしきりを持っていた。どうやら紗雪の荷物を一緒に持ってきてくれたようで、しきりの両端を二人で持っている。


「先輩2組ですやん」
「や、職員室行った帰りにコレ持ちながらプルプルしとる真中見てん」
「ひ弱すね」
「やかましい」


おかしそうに笑いながら二人は教室に入りしきりをロッカーな立て掛ける。やっぱりしきりは重かったみたいだ。その間も財前くんは廊下と教室の間の窓枠に寄りかかって紗雪を待っているのが分かった。


「ありがと白石、助かったわ」
「どういたしまして。せや由依、新聞部来れるか?印刷のこととか話そかて言うててん」
「あ、ほんと?じゃあ行こうかな」
「紗雪さん、軽音いきましょーや。アンタおらんと進まんねん」
「おー光はあたし居なくて寂しかったんだね、はいはい」
「はっ倒しますよ」
「はいはい可愛い可愛い」
「今日の紗雪さんいつもの三倍ウザいっスわ」


廊下に出て笑いながら財前くんの頭を無理矢理撫でる紗雪に財前くんはイラついたような表情をするけど、内心嫌がっていないのは見てとれた。やっぱり、仲が良い。普通のそれ以上の関係を感じる。白石くんは仲良しやな、なんて言ってそれを見て笑う。「ほな行こか、」私を見てから白石くんは私の頭をぽんと撫でてドアに向かう。それに頷いて私も廊下に出れば、教室に向かって紗雪が部活に行ってくるとクラスメイトに伝えていた。私の分も言っておいてくれたみたいだ。


「じゃあ由依、多分帰りバラバラ?だよね」
「うん、そうだね。じゃあまた明日!」
「おー、ばいばい!」


私と紗雪は手を振って逆の方向に別れた。白石くんと財前くんも軽く挨拶をして同じように別れる。ちらりと後ろを覗き見てみると、相変わらず楽しそうに二人して笑いながら歩いていた。ああ、もう、こんなこと思いたくないのに。



(紗雪、ずるい)



彼を想ったときから、このどうしようもなくきたない想いも消えなかった。










「紗雪さん」
「んー」
「あの二人仲良いすね」
「…そーねぇ」
「……まぁ、どーでもええですけど」
「はは、こらこら」
「そのぶん紗雪さんと仲良おしたりますわ」
「なんじゃその上から目線」






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