21 応援する過程





それは遡ること数週間前。






「何かないですかー」



文化祭委員が前に立ち、チョークを片手にそう言った。文化祭の季節がやってきて、クラスでの出し物を何にするかの話し合いがホームルームで行われた。お化け屋敷や休憩所、メイド喫茶などベタで一般的なものがあがる。面白いものをやりたいと言い出したやつがメイド喫茶を提案していたが女子生徒は乗り気ではなく、なんとなくだらけた空気がクラス全体に流れている。出席はしているものの参加はしていない、まぁまた寝ている千歳を眺めてから紗雪は黒板のほうに視線をやる。いつもやる気はあると言いつつぼーっとしながら参加する紗雪だが、今回ばかりは確かに"やる気"があった。使命感すらもっていそうな表情の彼女の真意を知る者は本人しかいないのだ。
平行線な話し合いがぐだぐだと進む中、すっと手をあげた女子にクラス中が息を飲んだ。


「真中が…挙手しとる…!」
「アホな!今まで自主性を試すもん全て捨てて睡眠を選んできたような女やで…!」
「革命…いや奇跡!?一体何が起こってるんや…」
「もーいいかーい」
「「「ええよ」」」


紗雪が手を上げて自ら意見するということが珍しいのは確かだが遊びたかっただけであろう彼らのコメントを総スルーしながら、頬杖をつき片手をだるんとあげたまま紗雪は口を開く。



「甘味…喫茶…!」



キラッ、という効果音でもつきそうな顔で言った紗雪にまわりは一拍置いてから軽い反応を返した。まぁ、しごく普通な意見であるからだ。しかし今まで出ていなかった意見ではあったので委員の人間が黒板にその文字を書きながらなんで?と問うと、紗雪は足を組み腕も組み、インテリ系よろしくにやりと笑ってからすらすらと言葉を紡ぐ。


「メイド喫茶とかお化け屋敷とか、そーゆーのは若者しか多分入ってこないでしょ。甘味喫茶なら大人も入ってこれるし、お年寄りも来れる。休憩所じゃただのつまんない部屋だけど、甘味喫茶なら教室もちょっとはいじれるし。なによりあたしたちが目指すのは学食チケット、そのためには売り上げが必要…それを狙って、かつ確実に手に入れるための甘味喫茶という意見である」


一瞬教室が静まりかえり、すぐにおおー、とざわめきが広がる。あんな真中、見たことがない。的確な上にいつもの五倍は饒舌であった。紗雪の意見を聞いてから皆甘味喫茶が良いのでは、と方向性が定まってきた。今まで出ていた案と比べてもそちらが良いのはすぐに分かったのだ。
甘味喫茶に決定、という委員長の声にクラスは拍手で包まれる。真中頼りにしてるよーなんて声をかけられ軽く手をあげて答える紗雪。…を見て、さきほどからぽかんとしているのは由依であった。











「今日はどうしちゃったの?私びっくりしちゃった」


教室掃除も終わり、クラスの人は綺麗にいなくなった教室で二人は窓際に座り話していた。今日の珍しすぎる紗雪に由依がそう言えば紗雪はケータイをしまいながらああ、と呟く。


「あたしは考えた」
「へ?」
「由依を応援したいんだけど、あんま恋愛経験ないからそこまであたし頼りにならないでしょ」
「え、ううん、そんなことないよ!」
「…そこで、光が自ら近寄ってくるようなものを考案した」


由依はひたすら頭上にクエスチョンマークを浮かべるだけだ。そんな由依を気にしないまま紗雪はぐっと力をいれて言った。




「名付けて、財前ホイホイ…!」




曰く、財前はぜんざいがすきなので(これを言うとき紗雪はギャグだよねと笑っていた。確かにとは思ったものの由依は言えなかった)それを出せば当日絶対にこの店に来るだろうと踏んだらしい。しかし財前が来る保証などどこにもない上に、来たところで何か話せる自信もなく、そしてそれだけのためにあそこまで面倒くさがりの紗雪がクラス全員を納得させるような言葉を考えたというのだろうか。ということをそのまま由依が紗雪に伝えれば紗雪は目をぱちぱちと瞬かせてから、さも当然だと言うようにあっさりと頷いてみせた。



「なんの力にもなれてないだろうけど、これくらいさせてよ」



困ったように笑った紗雪をみてから、由依は嬉しそうに微笑んだ。こんな友達がもてるなんて、きっと自分はすごくラッキーで、この出会いは宝物になるのだろう。紗雪を見ながら由依の笑顔はより柔らかいものとなった。




「…ありがとう、紗雪」










(一歩を踏み出す勇気をくれる)





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