20 初めての感情






「か…かっこいい…!」



ふらりと頭上に悦という漢字でも浮かんできそうな表情で一言もらしたのは千鶴であった。


文化祭も迫ってきた頃、執事喫茶をするという3年2組はこの日服のサイズ合わせを行っていた。何人かが同じ服を着回すためどの人もその服が入るか、または大きすぎるかの確認だ。その際2組きってのイケメン隊長白石と千鶴の想いびと謙也が揃って確認に入ったため執事服姿の二人を並んで見ることが出来た訳だが、千鶴以外の人間も思わず息を飲むほどに二人は飛び抜けてその衣装が似合っていた。謙也の金髪も案外白黒のそれには映えるぐらいできまっていたし、白石はそこらのお城に居そうだと思わされるようだ。
一瞬置いてから女子がきゃあきゃあと可愛いだのかっこいいだの言いながらケータイ片手に「撮ってええ?」と言いながら返事を聞かずに写真を撮り始める。カシャ、ピロリーンという写真の音をBGMに千鶴は満足そうに笑う。


「千鶴ちゃんほんまグッジョブ!半端ないでコイツ等!」
「あかん…これは絶対客入るでぇ…!」
「でしょでしょー」


ばしばしと背中やら肩やら叩きながら興奮したように賞賛してくるクラスメイトたちに千鶴はまたにぃと嬉しそうに笑って答える。何を隠そうこの執事喫茶を提案したのは千鶴であった。白石、謙也というイケメンをこういった場で生かさずしてどうするとクラスメイトに説いたところ賛成の声が多数、あっという間に可決となった。
衣装と言ってもスーツ用のズボンにワイシャツ、そして誰かが汚したら承知しないと脅されながらも親から借りてきた燕尾服だ。普段が制服なだけにいつもと少し違った姿に新鮮さを感じる。この二人が居るだけで十分な集客率があるだろう。

一通り騒ぎ千鶴は輪から外れ喫茶店のメニューを眺める。特別珍しいメニューはなくジュース等しかないが、それでも自分たちが決めた何かがどことなく嬉しくてにんまりと笑顔を浮かべながらメニュー掲げた。そんなところであの中からようやく抜けてきた謙也がよろよろと隣にならび床に座り込んだ。


「何やねんほんま…無駄に疲れたわ」
「あはは、おつー。白石くんは?」
「まだあっちや」


とんとんと肩を叩くしぐさをする謙也に笑いながら千鶴が問えば謙也は女の子の集団を指差した。そこにはどこか遠い目をしつつ笑顔で彼女たちの対応をする白石が居て千鶴は納得したように一息吐いた。フェミニストな彼のことだ、違和感は特にない。千鶴は上から謙也の姿を見て、すとんと隣に座りにっこりと笑った。


「謙也くん」
「なん」
「ちょーかっこいいよ」
「おー」
「マジ似合う」
「おおきに」
「謙也くん」
「んー」



「また惚れちゃった」



へへ、と柔らかく、幸せそうに笑う千鶴を見て謙也は一瞬固まってからふいと顔をそらして「……さよか」と小さく答えた。千鶴はにこにことまたメニューを見ながら、鼻歌をうたう。聞き覚えのよくあるそれを聞きながら謙也は目を閉じた。




(卑怯やろ今の、……初めて見たわ)
(そんな笑顔)






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